映画評「かそけきサンカヨウ」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2021年日本映画 監督・今泉力哉
ネタバレあり

エリック・ロメールみたいだと思って以来注目している今泉力哉監督の作品。今回ロメール度は低い印象を覚えつつ、二人でいるところを撮るショットが多いのはやはりロメール的ではないかと思わされる。

中学生のヒロイン志田彩良は同じ美術部の男子鈴鹿央士を憎からず思ってい、ある画家のギャラリーへデートに誘って出かけるが、そそくさと出てきてしまう。何となれば、その画家こそ幼少時に彼女を置いて出て行った実の母親・石田ひかりであるからである。
 その直前に、作曲家の父・井浦新はまだ幼児の娘・鈴木咲を持つ通訳・翻訳家の菊池亜希子と再婚している。ヒロインは二人を温かく迎える。ヒロインはそれより実の母親が自分をどう思って置いていったのか気になって仕方がないが、父親の言葉に自信をもって実母と会ってみる。
 これで精神的な自由を得た彼女は、継母を“お母さん”と呼ぶようになる。

僕がこの作品で一番好きなのはこの箇所で、ヒロインが彼女に“お母さんと呼んでも良い?”と聞くところで瞬間湯沸かし器のように熱い涙が出てきてしまった。継母の菊池亜希子よりも早くである。この作品の家族に大きな問題となるべき人物は出て来ないが、それでも前妻の娘から “お母さん” と言われることの嬉しさは、ひねくれていない人物であれは当然感じるものであり、それを想像した為の涙である。

本作は思春期少女の心情を描いた作品で、好きな男子への恋心も丁寧に描かれているが、基本を “家族” に置いていると思う。彼の家族関係も扱われる。
 ヒロインは、父親が担当している映画の同一場面に使われる二種類の音楽について、一つは恋愛、一つは友情(を想起させる)と答えているのも、彼への思いがベースにある。
 しかし、実際にこの感情の間で揺らいでいるのは相手の鈴鹿君のほうなのである。この辺り実にナイーヴで、日本映画も捨ててものではないと思う。
 彼らの共通の友人・中井友望が、迷う彼に名言を放つ。 “言えないってことは、 好きだってことじゃない?”(概要)と。

悪い人が出て来ないと “本当らしくない” と言う人が世の中にはいるが、そんなこともないだろう。僕の中学時代の家族関係や友人関係はこんなものだった。

バカーは大好きだって意味だよ。by キョエちゃん

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