映画評「情熱の狂想曲」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1949年アメリカ映画 監督マイケル・カーティス
ネタバレあり

“狂想曲”は“ラプソディー”と読む。

1920年代のジャズ発展期に活躍したらしい実在のコルネット奏者ビックス・バイダーベックの短い生涯(1903-1931)をモデルにしたミュージシャンもの。後述するように、時代を20年も移していて音楽的に全然違うので伝記映画と言うには無理がある。
 監督は「カサブランカ」のマイケル・カーティスだが、1949年製作なので当時流行ったセミ・ドキュメンタリーもどきのロケが敢行されている。

少年リックは親を早くに亡くして各地を転々、ただ一人の肉親である姉にも碌に面倒見てもらえないう少年時代に黒人バンドの音楽に興味を覚え、中でもトランペット奏者のフアノ・ヘルナンデスに惹かれて私事する。やがて成長して(カーク・ダグラス)一人前のトランペット奏者になり、白人の多いダンス用楽団に加わるが、楽譜通りにしか演奏しないのに反発し、意気投合したピアノ奏者ホーギー・カーマイケルと共にもっと即興的に変化がつけられる演奏を求めるうち、ドリス・デイを歌手に据え置く楽団に加わる。
 しかし、その生活に満足できないうちに心理学を学ぶ複雑な性格の女子大生ローレン・バコールと結婚する。最初から無理のあった結婚はすぐに破綻し、彼の人生は次第に荒んでいく。冷たく追い返したヘルナンデスが直後に事故死したのに苦しみ、酒に溺れ、大事なペットも壊してしまう。そして遂に肺炎に倒れ、カーマイケルとドリスが駆けつける。

最後の共演の一幕が臨終に際しての幻想なのか現実なのか僕には判断が付きかねる。お話の構図としては幻想でないと様にならないが、“高い音が出なくても良いではないか”という台詞は“現実”を思わせる。

モデルにしたと言っても、通る車を見ても主な時代背景は1940年代だからバイダーベックが演奏した当時のものとは大分違うわけだが、それはともかく、演奏が大量に聞ける前半は大変楽しい。演奏が良いだけでなく、場面の繋ぎも実に好調である。

ところが、多くの方が仰るように、ローレン・バコールの心理学専攻学生が出てくると俄然お話が停滞する。彼女の役は不要ではないかと仰る人までいるが、彼がダメになる原因を作った張本人だから全くなしにはしないまでも、主人公の姉役メアリー・ベス・ヒューズくらいのクラスの女優を使って出番を少なくすれば全体的にもっと面白くなったはず。

ダグラスの演奏を吹き替えているのは有名なハリー・ジェームズ。ミュージカル「姉妹と水兵」(1944年)にも出ていましたね。

同じトランペット奏者チェット・ベイカーの伝記映画「ブルーに生まれついて」(2015年)を想起します。

この記事へのコメント

モカ
2022年07月02日 11:20
こんにちは。

本作は未見ですがバイダーベックの伝記的映画なら「jazz me blues」が良かったです。 また観たくなりましたが配信はされていないようですね。今後も限りなくされなさそう…
オカピー
2022年07月02日 18:09
モカさん、こんにちは。

>「jazz me blues」が良かったです。
>また観たくなりましたが配信はされていないようですね。

YouTubeに日本語字幕付きで次のような完全版がありました。
イタリア映画ですが会話は英語、他にこの題名のものはないようですので・・・

https://www.youtube.com/watch?v=SYN6TlI8IYM
モカ
2022年07月02日 20:10
あ〜っ! これです!
もしやと思いyoutubeも当たったのですが見つけられませんでした。
ありがとうございます。

さっき40数年前の日本盤レコードを引っ張り出して油井正一氏のライナーノーツを読みましたが面白い事が書いてありました。
「ビックスのレコードにあまり大きな期待をかけると失望する。ゴールドケット、ホワイトマン両楽団を通じて共演者にはあまりめぐまれなかった。 中略 
8小節か16小節のビックスのソロだけが鑑賞の対象となる。彼は僅かなソロだけで満足させてくれる稀有のプレーヤーだ。」
との事です。

村上春樹が「ポートレイト イン ジャズ」(文庫の表紙がビックスです)で取り上げていましたね。
悔しいけど音楽を語らせると(特にジャズ)滅法上手いです。
オカピー
2022年07月03日 10:02
モカさん、こんにちは。

>ありがとうございます。

どういたしまして!
僕の場合は、割合早く見つかりましたよ。
どうして差が出たのだろう?

>ビックスのレコード

良く知らないのでYouTubeで幾つか聴いてみたら、概して、思ったより良い音でした。

>村上春樹が「ポートレイト イン ジャズ」(文庫の表紙がビックスです)
>悔しいけど音楽を語らせると(特にジャズ)滅法上手いです。

きっと生まれついての文士なのですな。
「ポートレイト・イン・ジャズ」というと一昨年カーステレオで聞いていたビル・エヴァンスの名盤のタイトル。ジャズを語るには誠に良いタイトルですね!

村上春樹と言えば、比較的読まれた率が高そうなものを多く選んだつもりなのに、1日にアップしたわが読書録への反応が、気持玉二つ、コメントがモカさんの一つと、いま一つ。半年かけて書いて来たのに、これでは寂しい。
 コメントは実はアクセス数に結構影響しますので、モカさん、強引に何かネタをねじ込んで貰えませんか(笑)
 その前に自分で愚痴を書き込んでみるつもりですが(爆)
モカ
2022年07月03日 12:15
ねじこんで良いのですか⁉︎ (笑)
そうで無くても「高齢者の暇を与えてはいかん、例えばこの婆さん」と言われそうでこれでも遠慮してました。
村上作品、私は「ねじまき鳥」以降ほぼ読んでいませんので今現在に至る世間一般の村上春樹像(そんな物が有るのかどうかも分かりませんけど)やワールドワイドな愛読者の評価ポイントにも全く無知です。
私が初期の物から読むように進言したのがいけませんでしたかね? もう40年も前の話ですものね。今の若い人達は相対的に「今」の物を好んで読むようです。

あ、ここに書くんじゃなかった。 では後ほど改めて…

youtube はじめに 曲ばかり出てきたので映画に気付かなかったようです。
オカピー
2022年07月03日 13:43
モカさん、こんにちは。

>ねじこんで良いのですか⁉︎ (笑)

ねじを巻いても良いです^^v

>村上春樹

彼に限らず、どの作家・どの作品でも。
いつもの伝で、関連しそうなお薦めの本についてもOKですよ。

我が家の初代愛猫ルミ。60年くらい前の小さな写真ではよく解らないでしょうが、本当に美形でした。

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