映画評「太陽を盗んだ男」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1979年日本映画 監督・長谷川和彦
ネタバレあり

四十余年前に映画館で観て以来の再鑑賞。

WOWOWは古い洋画に関して全滅状態ながら(などと言っていたら7月にはヌーヴェルヴァーグ作品5本放映する。「獅子座」のみ未保存)、邦画に関しては古い映画もぼちぼち放映してくれるが、その中でも本作の放映はグレートだ。監督の長谷川和彦にとって二作目にして今のところ最後の作品。もう監督することはあるまい。日本では珍しく馬力のある監督なのだが。

高校の化学教師・沢田研二が率いる修学旅行中のバスが老人・伊藤雄之助にバスジャックされるのがプロローグ。この時に教師と協力して犯人を捕らえる刑事が菅原文太だ。
 碌に授業をせず原爆の作り方を教えるなど変わり者の教師は、東海村の日本原電に侵入してプルトニウムを盗み、試行錯誤の末に小型原爆を完成させると、実際に作ったことを証明した上で、ボイスチェンジャーを使って政府を脅迫する。担当する刑事には自ら菅原を指名、プロ野球中継の試合終了までの放送を要求して実現させる。やがてラジオ放送を通じて得た情報を基に、当時未達成であったローリング・ストーンズの公演も要求する。これも実現の見込み。
 ビルでの電話が逆探知されて建物が封鎖されると、テーブル下に置いた原爆を利用してまんまと逃げ出す。一時は警察のものとなった原爆を取り返すと、彼と懇意になったラジオDJの池上季実子と逃避行をし、遂には菅原と一対一の対決と相成る。

原案はレナード・シュレイダーなので、弟のポールが書いた「タクシー・ドライバー」(1975年)に似た、主人公の人生への不充足感(孤独?)がベースにありそうだ。大統領候補の代りに女性DJを見つめる姿はそっくりである。
 また、主人公の持っているであろう、社会に対する曖昧な苛立ちは、長谷川の第一作「青春の殺人者」(1976年)の主人公の官憲に対する苛立ちと通底するものがある。

お話は中途半端に現実的ではなく荒唐無稽と言って良い為、原電に侵入してプルトニウムを奪えるはずがない、といった現実的な指摘は野暮と言うべし。そもそも「タクシー・ドライバー」同様、化学的知識のある教師たる主人公の幻想の可能性さえあるお話なのだ。

反体制的な或いはアナーキーな設定が、映画ファンだけでなく、当時のプロにも大いに受けたのは容易に理解できるが、僕が評価したいのは日本映画には珍しい良い意味でのゲーム感覚、娯楽性である。とりわけ、終盤のカー・アクションがなかなか良い。最近の「ワイルド・スピード」のような派手さを期待して貰っても困るが、実写映画の描写は適度に本当らしいのが良い。

40年余り前の僕は、池上季実子のDJの存在をマイナスと考えたようだ。主人公との絡みを水増し気味と評し、荒唐無稽ぶりを殺いでいると書いてある。今回観る限り後者には同意しかねるものの、前者(水増し)に関してはそう言えないでもない。

♪核と言えば思い出す 遥かなプーチン クレムリン(「夏の思い出」のメロディーでどうぞ)。プーチンがウクライナに行っている蛮行と、ロシア国内の情報統制など諸事情で、最近の僕は厭世観に苛まれている。21世紀になっても人間は馬鹿だった。

この記事へのコメント

蟷螂の斧
2022年07月16日 13:38
こんにちは。沢田研二が演じる変わり者の教師が面白かったです。借金塗れで業者(小松方正)に皮肉を言われる。プルトニウムをうまく盗むところは話がうまく行き過ぎですが、プロ野球中継の試合終了までの放送やローリング・ストーンズの公演を要求するのが笑えました。

>とは言え、統一教会と自民党幹部議員の関係は1960年代以来営々と続くものであります。

無関係とは言えません。

>反共であるのに、何故か、安倍氏と関係が深く同じく反共である統一教会を反日といって攻撃する矛盾です。

なぜそのような矛盾が起きるのでしょうか?

>選択制夫婦別姓に舵をきれば、まだ日本も捨てたものではないのですがね。

我が家の娘たちが結婚する頃にはどうなっているのかなと思います。

>高齢で益々融通がきかなくなりそうなトランプが再び大統領になる

彼も引き際を考える時期でしょうか?

>今朝の新聞

記事の図を見て知ったのですが、元首相の後ろにいた7人は国会議員や政党関係者あるいは市長だったんですね。
僕はそこにいるのはSPで、一回目の銃声の後になぜSPたちがしゃがんでしまうのか?元首相を守る盾にならなかったのか?そう思っていました。
また、SPが全員容疑者のところに行きましたが、もしも共犯者が国会議員達を狙ったらとんでもない事になっていた。専門家たちが指摘しています。
オカピー
2022年07月16日 22:13
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>プロ野球中継の試合終了までの放送やローリング・ストーンズの公演を
>要求するのが笑えました。

長谷川和彦監督は、核兵器によって何を要求するのかまるで思いつかなかった言っているようです。従って、何をやりたいか本人自身よく解っていない主人公の立場の曖昧さは、監督自身の反映と考えるのが妥当らしい。

>無関係とは言えません。

犯人にとっては個人的な恨みでも、やはり安倍氏が政界での立場の為に、実は日本での政治的影響力のある変な宗教団体に関連していたことが、結果的に彼を死に追い込んだと、言えないこともないですね。

>なぜそのような矛盾が起きるのでしょうか?

多分は彼ら(俗にネトウヨと言いますね)は、安倍氏の国粋主義的なところを買っているが、実は統一教会だけでなく、半島系パチンコ業界との関連の深いところを一切無視して、まるでないことのようにしているのでしょうね。
 安倍氏の国粋主義は、そういう意味では全くインチキですし、そうした関係をないように扱う彼らもインチキです。
 選択制夫婦別姓に反対する自民党員が多いのは、統一教会や神社本庁といった宗教グループの票への影響力だと思います。
 僕の考えでは日本の発展を妨げているのは彼ら(そうした自民党員ら)であり、政教分離をもっと徹底すべきでしょう。

>彼も引き際を考える時期でしょうか?

プーチンの戦争は、共和党も大いに批判しているので、彼と仲が良いと言われるトランプにとってはマイナスになるはずなのですが、政治家というのは結局愚かなもので、自分が議員でいられると思えば、マイナス面も無視してしまう。銃撃事件についても共和党議員も実は結構問題視しているものの、やはり全米ライフル協会の影響力を無視できず、根本的な銃規制に進めない。客観的に考えれば、銃があることで守られる命より、銃があることで亡くなる命の方がアメリカでは圧倒的には多いのは確かなのですが。

>SPが全員容疑者のところに行きましたが、もしも共犯者が国会議員達を狙ったらとんでもない事になっていた。

日本の議員や官憲は、もっとアメリカ映画を観た方が良い。
「永遠の0」を見て泣いているより、政治でも護衛でも、勉強になることが多いですよ。
蟷螂の斧
2022年07月22日 21:29
こんばんは。丁寧なレスをして下さったのに、それに対するレスが遅くなってすみませんでした。ここのところ残業だらけでした・・・。

>何をやりたいか本人自身よく解っていない主人公の立場の曖昧さは、監督自身の反映と考えるのが妥当らしい。

それって面白いです。

>結果的に彼を死に追い込んだと、言えないこともないですね。

同じ意見の人が結構います。

>半島系パチンコ業界との関連の深いところを一切無視して、まるでないことのようにしているのでしょうね。

そこまで関連がありましたか!

>統一教会や神社本庁といった宗教グループの票への影響力だと思います。

所詮は票集め?政教分離も難しいです。

>自分が議員でいられると思えば、マイナス面も無視してしまう。

思想や主張がかわってしまうのですね。

>政治でも護衛でも、勉強になることが多いですよ。

「ダラスの熱い日」「大統領の陰謀」が良かったです。
オカピー
2022年07月23日 19:19
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>それに対するレスが遅くなってすみませんでした。

なんのなんの。
こんな小さなブログに来ていただけるだけで、感謝です。

>同じ意見の人が結構います。

東京新聞にも、僕の“安倍氏の国粋主義派インチキ”という意見と同じような分析が載っていましたよ。インチキとは言っていませんでしたがね。
ネット右翼の人で、“勉強不足だった”と言う人も紹介されていましたが、僕は大半のネトウヨさんは知っていたながら、知らぬ半兵衛を決めこんでいるのだと思います。

>>半島系パチンコ業界との関連の深いところを一切無視して
>そこまで関連がありましたか!

山口県の実家は、パチンコ御殿と言われているようです。
パチンコ業界は大半が半島系と言われていますし(ネトウヨさんが言っている)、まして昔から半島と往来の多い山口ですから。地元の人は知っているでしょうね。安倍事務所も経営者の地所の中にあるそうです。

>所詮は票集め?政教分離も難しいです。

票集めだけですね。
この類は家庭を重んじるわけで、今回当初の“こども庁”が”こども家庭庁”になったのも、統一教会絡みだろうと今日の新聞に書いてありましたよ。

その家族観の為に維持される強制性夫婦同姓は、人によっては200くらいの変更手続きが必要なようで、処理2年くらいかかるようです。相当の経済的ロスですよ、これ。男性の場合は、女性以上に大きな弊害があるようです。
間接的に少子化にも影響しているかもしれません(選択制夫婦別姓推進に関連している或る人は、直接の影響はないと仰っています)。

>「ダラスの熱い日」「大統領の陰謀」が良かったです。

クリント・イーストウッドが主演した「ザ・シークレット・サービス」は、大統領護衛に失敗した男のお話。これもなかなか面白い映画でした。
蟷螂の斧
2024年05月16日 20:25
こんばんは。菅原文太でここにお邪魔します。「トラック野郎 御意見無用」を初めて見ましたが、やはり面白かったです!低予算で突貫工事で製作されたそうですが、スタッフや出演者の勢いが感じられます。菅原文太と愛川欽也のコンビも面白いです。そして夏純子や中島ゆたかが綺麗でした。まだ若くてスマートだった安岡力也が乱闘の場面に出ていますね。
オカピ-
2024年05月16日 21:24
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>「トラック野郎 御意見無用」

繰り返している観ている「男はつらいよ」には詳しいですが、こちらは全然解りません。
TV放映を眺めたことがある程度で、それが何作目かも解らない始末。余りに俗だなあという印象が強く、趣味に合わなかったですね。
今なら観ても良いかなあ?
蟷螂の斧
2024年05月18日 23:04
こんばんは。こちらのブログで「トラック野郎」とか「鈴木則文」で検索してもほとんど記事が出て来ないので、オカピー教授にとっては興味がない作品だろうなと思いました。

松竹のドル箱シリーズ「男はつらいよ」に対抗して東映が低予算、突貫工事で製作した第1作。スタッフや出演者の熱気が感じられます。
双葉師匠は、このシリーズは評価されていたのでしょうか?
オカピー
2024年05月19日 09:12
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>オカピー教授にとっては興味がない作品だろうなと思いました。

あははは。見透かされていましたか^^;
 このシリーズが作られたのは高校時代から大学生という生意気盛りの頃ですからね。実際TVでやっているのを眺めた時も、予想通りの俗っぽさで、大学生になってから始めた映画評を書くに至らなかったデス。

ウィキペディアにも、寅さんの雅に対して、トラック野郎の俗とありますが、その通りと思います。

>双葉師匠は、このシリーズは評価されていたのでしょうか?

師匠はフランス文学を専攻したインテリですから、この映画の俗臭には感心しなかったのではないでしょうか。大衆映画との距離は同時代の著名批評家より近かったですが、僕と同じく下ネタ笑いはお嫌いでした。
 東映には申し訳ないですが、東映映画には、お話の面白味はともかく、映画的な面白味は薄い。だから、洋画も観る映画ファンは東映を敬遠する。著書「日本映画ぼくの300本」で上げたのは「宮本武蔵」シリーズと「飢餓海峡」(ともに戦前からの大ベテラン内田吐夢の監督作品で、どちらも文句なしの傑作)、マキノ雅弘の「日本侠客伝」だけ。
 グッド・ニュースとしては、菅原文太が好きな主演俳優35人に入っています。案外面白がってご覧になったかも?

名代として僕が採点するなら☆☆★★★くらいですね。尤も昔一度だけ斜め見しただけですので、きちんと見れば☆☆☆くらい行くかも知れません。
蟷螂の斧
2024年05月28日 18:15
こんばんは。愛知県は大雨と強風。そちらは大丈夫でしょうか?

この映画に関して他のブログの管理人さんが「原爆で脅しているのに、要求があまりにも小さすぎるという矛盾」、また「それほどの要求しか思いつかないしがない人間にも、これほどの恐ろしいものが簡単につくれてしまうというアイロニー」を指摘されていました。そうですよね・・・。

>グッド・ニュースとしては、菅原文太が好きな主演俳優35人に入っています。

昭和40~50年代の邦画を支えた役者さんの一人なのでしょうね。
オカピー
2024年05月28日 20:01
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>愛知県は大雨と強風。そちらは大丈夫でしょうか?

はい。
群馬県は、内陸県でしかも海から最も遠いので、台風や熱帯低気圧などの被害はいつも少ないです。
♪雨がしとしと日曜日♪とタイガースが歌っていましたが、そんな感じです。

>原爆で脅しているのに、要求があまりにも小さすぎるという矛盾

結局はブラック・コメディーなのだと思います。

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