映画評「ジャニス:リトル・ガール・ブルー」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2015年アメリカ映画 監督エイミー・バーグ
ネタバレあり
十代の頃「ミー・アンド・ボビー・マギー」Me and Bobby McGeeを聞いて凄い歌手がいるもんだなあと思った。ジャニス・ジョプリンが死んでからもう何年も経った頃だ。それ以外に「ジャニスの祈り」Move Overを知っていた。大学生だった1980年頃『グレイテスト・ヒッツ』Janis Joplin's Greatest Hitsを買った。お気に入り「ミー・アンド・ボビー・マギー」が入っているからとりあえず満足したが、Greatest Hitsには収まり切らない才能と思って、後年数少ないスタジオ・アルバムを揃えた。僕のジャニスに関する個人的な沿革はこんなところ。
で、本作はアメリカのTVドキュメンタリーで、日本では映画館でも観られたらしい。昔と違ってフィルム上映でなくても見られる時代(と言いますか、最近はフィルム上映のできる映画館のほうが少数派?)なので、TV映画も見られるわけだ。
映画関係者や音楽関係者を探るドキュメンタリーの作り方としては、関係者のインタビューが中心で、型通りの域を出ないと雖も、彼女の死に方を知っているだけに切なくなるところが少なくない。
殊に彼女の死後に発表された「ミー・アンド・ボビー・マギー」をめぐるシークエンスは辛い。この曲も入っている、遺作となったLP『パール』Pearlの録音中スタジオに現れないジャニスを心配したローディのジョン・クックがホテルにヘロインのオーバードーズ状態で亡くなっている彼女を発見したのだが、実はその前まで半年ほど麻薬を断っていたらしい。それを知ると知らないのでは彼女の死に対する思いも大分変って来る。
インタビューだけでなく、彼女の手紙が紹介されてい、キャット・パワーという女性歌手がジャニスに扮して読んでいるのだが、同級生とはうまく行っていなかった(虐められていた)のに対し、家族との関係は必ずしも悪いものではなかったことが伺われる。不仲が原因ではなく、常識人ばかりの家族がいる家にいたのでは反骨的な(?)自分らしさを発揮できずに(大学を中退して)飛び出したというのが実際らしい(家族の問題より、保守的なテキサスの生まれ故郷を抜け出すのが第一だった)。
ジャニスの原点がブルースだということは、当ブログ常連のモカさんに教えられた。「コズミック・ブルース」という題名の歌は知っていても、プリミティヴなブルースとはなかなか結び付かなかったのだが、当時の音源も残っていて確かに戦前のベッシー・スミスのようなブルースを歌っているのだ。
それが何故あのようなシャウトするロッカー・スタイルに進展していったのかと言えば、僕が推測していたように、オーティス・レディングの影響。彼女自ら真似したと言っている。足を使った歌い方も相当似ている。僕は彼女の歌う時の足の動きが大好きなのだが、歌を歌っている時だけは幸せという、孤独そうな彼女の心情が察せられ、涙が滲んでくることが多い。
ロック・シンガーとしてのスタートは、サンフランシスコのビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニーのリード・シンガーとして。バンドが実力不足なので彼女の歌だけが傑出している格好になり、メンバーとの愛憎関係(恋愛感情も含めて)が色々あった後、3作目から別のメンバーをバックに従えるソロ・シンガーになった(僕は、2作目は彼らの作品というよりジャニス・ジョプリンのレコードという感触を持っている)経緯がメンバーたちの言葉などを交えて綴られるが、恋愛感情以外余り興味は湧かない。サンフランシスコとロサンゼルスの音楽業界が仲が悪いというトピックは興味深いというか、笑える。
ビートたけしも、初めてジャニスを聞いて“こんな歌手がいるのか!”と吃驚したと、NHKの番組中で述べていた。ビートたけしと言えば、ビートルズが例の“ゲット・バック・セッション”で、彼女の「心のかけら」Piece of My Heartを二回少しだけ歌っている。
2015年アメリカ映画 監督エイミー・バーグ
ネタバレあり
十代の頃「ミー・アンド・ボビー・マギー」Me and Bobby McGeeを聞いて凄い歌手がいるもんだなあと思った。ジャニス・ジョプリンが死んでからもう何年も経った頃だ。それ以外に「ジャニスの祈り」Move Overを知っていた。大学生だった1980年頃『グレイテスト・ヒッツ』Janis Joplin's Greatest Hitsを買った。お気に入り「ミー・アンド・ボビー・マギー」が入っているからとりあえず満足したが、Greatest Hitsには収まり切らない才能と思って、後年数少ないスタジオ・アルバムを揃えた。僕のジャニスに関する個人的な沿革はこんなところ。
で、本作はアメリカのTVドキュメンタリーで、日本では映画館でも観られたらしい。昔と違ってフィルム上映でなくても見られる時代(と言いますか、最近はフィルム上映のできる映画館のほうが少数派?)なので、TV映画も見られるわけだ。
映画関係者や音楽関係者を探るドキュメンタリーの作り方としては、関係者のインタビューが中心で、型通りの域を出ないと雖も、彼女の死に方を知っているだけに切なくなるところが少なくない。
殊に彼女の死後に発表された「ミー・アンド・ボビー・マギー」をめぐるシークエンスは辛い。この曲も入っている、遺作となったLP『パール』Pearlの録音中スタジオに現れないジャニスを心配したローディのジョン・クックがホテルにヘロインのオーバードーズ状態で亡くなっている彼女を発見したのだが、実はその前まで半年ほど麻薬を断っていたらしい。それを知ると知らないのでは彼女の死に対する思いも大分変って来る。
インタビューだけでなく、彼女の手紙が紹介されてい、キャット・パワーという女性歌手がジャニスに扮して読んでいるのだが、同級生とはうまく行っていなかった(虐められていた)のに対し、家族との関係は必ずしも悪いものではなかったことが伺われる。不仲が原因ではなく、常識人ばかりの家族がいる家にいたのでは反骨的な(?)自分らしさを発揮できずに(大学を中退して)飛び出したというのが実際らしい(家族の問題より、保守的なテキサスの生まれ故郷を抜け出すのが第一だった)。
ジャニスの原点がブルースだということは、当ブログ常連のモカさんに教えられた。「コズミック・ブルース」という題名の歌は知っていても、プリミティヴなブルースとはなかなか結び付かなかったのだが、当時の音源も残っていて確かに戦前のベッシー・スミスのようなブルースを歌っているのだ。
それが何故あのようなシャウトするロッカー・スタイルに進展していったのかと言えば、僕が推測していたように、オーティス・レディングの影響。彼女自ら真似したと言っている。足を使った歌い方も相当似ている。僕は彼女の歌う時の足の動きが大好きなのだが、歌を歌っている時だけは幸せという、孤独そうな彼女の心情が察せられ、涙が滲んでくることが多い。
ロック・シンガーとしてのスタートは、サンフランシスコのビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニーのリード・シンガーとして。バンドが実力不足なので彼女の歌だけが傑出している格好になり、メンバーとの愛憎関係(恋愛感情も含めて)が色々あった後、3作目から別のメンバーをバックに従えるソロ・シンガーになった(僕は、2作目は彼らの作品というよりジャニス・ジョプリンのレコードという感触を持っている)経緯がメンバーたちの言葉などを交えて綴られるが、恋愛感情以外余り興味は湧かない。サンフランシスコとロサンゼルスの音楽業界が仲が悪いというトピックは興味深いというか、笑える。
ビートたけしも、初めてジャニスを聞いて“こんな歌手がいるのか!”と吃驚したと、NHKの番組中で述べていた。ビートたけしと言えば、ビートルズが例の“ゲット・バック・セッション”で、彼女の「心のかけら」Piece of My Heartを二回少しだけ歌っている。
この記事へのコメント
☆「心のかけら」Peace of My Heart ☆
2,3日前にビリークリスタルの「幸せは、ここにある」を観ていたらパーティの場面でティファニーハディッシュが大盛り上がりで歌っていましたがこういうのは素直に嬉しいです。
随分前、VHS時代にただの「ジャニス」っていうのもありましたね。あちらはラストに「me and…」が流れてこちらの頬には涙が流れて… 何十年経っても何を聴いても感無量で泣きそうになりますが…
☆ リトルガールブルー ☆
これはニーナシモンのデビューアルバムのタイトルでこの曲はジャニスとニーナしか聴いたことがなかったのですが、さっきyoutube で検索したら色々出てきたので聴き比べてみました。 ジャニスはやはりニーナバージョンを踏襲しているようで1番近かったです。
若い頃はこの曲はジャニスバージョンの方が好きでしたが、今はもう少し悟りの境地?のニーナバージョンの方が心が安らぎます。
チェットベイカーのボーカルがこの2人に近い感じで思わぬ拾い物でした。
勝手に名前を出させて戴きましたm(__)m
>☆「心のかけら」Peace of My Heart ☆
>2,3日前にビリークリスタルの「幸せは、ここにある」
Piece of My Heartでした。すみません。
Peaceでは「心の平和」になってしまう。オカピーも筆ならぬ腕の誤りです(笑)
「幸せは、ここにある」はPrice Videoで追加料金なしで観られるようです。
時間が空いた時に観てみます。
>me and…」が流れてこちらの頬には涙が流れて… 何十年経っても何を聴いても感無量で泣きそうになりますが…
僕はその映画を観ていないと思いますが、ジャニスの歌を聞くと本当に涙が出て来ますよね。
他の曲も良いけど、「ミー・アンド・ボビー・マギー」は大好き。終盤の怒涛の歌い方が圧巻ですね。
>☆ リトルガールブルー ☆
>今はもう少し悟りの境地?のニーナバージョンの方が心が安らぎます。
>チェットベイカーのボーカルがこの2人に近い感じで思わぬ拾い物でした。
二つとも聞きました。
ニーナは相変わらず低い声が魅力的ですが、チェットベイカーも良いですね。ジャズの男性ボーカルは滅多に聞きませんが、男性にしてはポップス・ファンにも聞きやすい感じがしました。
こちらは昨夜神の怒りのような雷雨に見舞われましたがそちらは如何ですか?
冗談抜きで箱舟を造ろうかなどと考えてしまいましたよ。
>勝手に名前を出させて戴きましたm(__)m
光栄です。
「心の平和」ジャニスが喉から手が出るほどに渇望しても手に入れられなかったものですね。
彼女が歌っている時の脚,といえば真っ先にモンタレーでのBALL&CHAIN の映像を思い出します。
客席でママキャスがビックリしすぎて開いた口が塞がらない(笑)あれです。
私にはあの脚の動きは彼女の焦燥感の現れに見えます。あの時代の女の子目線で言うと、あれは地団駄を踏んでいるんです。(気持ちが分かり過ぎて共感しすぎてしんどくなる)
残念ながらオーティス程の余裕はないです。
5人目のドアーズと言われたポールロスチャイルドに出会って、発声をコントロールできるようになったとありましたね。というか「パール」は彼がプロデュースしていたんですね。この映画を見るまで知りませんでした。レコードの解説には書いてありましたがちゃんと読んでませんでした。
手持ちの「パール」のレコードの国内初版盤?には切って冊子に出来るポスター大の解説が入っていて、(これはいつ頃まで入っていたんでしょう?お手持ちの物に入ってましたか?)久しぶりに出してきましたがもうボロボロで取り扱い注意物件です。
これに第一発見者ジョンクックの詳しい談話も載っていて、ロス市警の検視官トーマス野口が死因究明に当たったとあります。
マリリンモンローの検視官で有名な方ですね。
>こちらは昨夜神の怒りのような雷雨に見舞われましたがそちらは如何ですか?
こちらは晴れていました。
ここが凄かったのは、2週間前くらい。もう連日雷雨がやって来て、その度に電源コードを抜きました。パソコンとTVを壊したことがあるので。
群馬は2000m級の山が県の半分以上を囲む大型盆地・扇状地のような地形の為に雷雨が多いところ。お隣の栃木も似た感じですね。
京都も地形的に多そうな感じがしますが、どうですか。石川県同様に、冬の雷が多いのですかね?
>モンタレーでのBALL&CHAIN の映像を思い出します。
>私にはあの脚の動きは彼女の焦燥感の現れに見えます。あの時代の女の子目線で言うと、あれは地団駄を踏んでいるんです。(気持ちが分かり過ぎて共感しすぎてしんどくなる)
>残念ながらオーティス程の余裕はないです。
Ball & Chainに関しては納得。そんな感じがします。
しかるに(笑)、Move Over のどこかのTV局でのパフォーマンスは、Respect におけるレディングにかなり近い感じが僕はするんですよ。
それはともかく、あのモンタレーでのBall & Chain を歌い終わった後に、照れくさそうにはにかむように微笑んで、そそくさと駆け出していく彼女が実に可愛い。彼女が内気というのが解るような気がする映像と思いませんか?
>手持ちの「パール」のレコードの国内初版盤?には切って冊子に出来るポスター大の解説が入っていて、(これはいつ頃まで入っていたんでしょう?お手持ちの物に入ってましたか?)
すんません。
僕が持っているブラック・ディスクは「グレイテスト・ヒッツ」だけなんです。
CDプレイヤーを売っている部門に勤めていたもので、社会人になってから買ったのは当時出始めたばかりのCDばかり。
確かにモンタレーのジャニスは初々しいですね。実質的全米デビュー!
ウッドストックの時はいつ出番が来るともしれない長い待ち時間にヘロインをやり過ぎて目も当てられない状態だったとか…
ブロードウェイミュージカルの「ジャニス ジョプリン」の舞台を映した映画が去年日本で上映されていましたね。見損なってしまいましたが。
もうWOWOWでは観られるんじゃないですか?
セリフなしで歌だけで進行して、ジャニスとジャニスが影響を受けた5人の女性歌手として、べシースミス、オデッタ、アレサフランクリン、エタジェイムス、ニーナシモンが登場するようです。アレサ以外は大好きなので我が意を得たりです。
(アレサは嫌いじゃないけど世評ほどには…です)
この中で歌い方でいちばん影響を受けているのはやはりエタジェイムスでしょうね。
エタのTell Mama なんてかなり似ていますよ。
中年になってすごく太ったエタジェイムスの映像を観た時「あぁジャニスも生きていたらこんな感じになってたかもね〜」と思いました。
こちらは今日は暑さも少しマシですが盆地ですからね、暑いです! 雷はそんなに多くはない感じです。
そして冬は底冷えがきついです。京都人と一緒で気候も性格悪い(笑)
お隣の滋賀は真ん中に琵琶湖があるので涼しいらしいです。
しかし今年は世界規模で異常気象のようですね。イギリスでは住宅が自然発火したとか。パリも道路が水浸しになったり大変です。
>「ジャニス ジョプリン」の舞台を映した映画が去年日本で上映されていましたね。見損なってしまいましたが。
>もうWOWOWでは観られるんじゃないですか?
2週間前にやっていましたが、気づかずに見落としました。
配信はやっていませんが、9月中旬にもう一度放送するようなので、録画しておきます。
>この中で歌い方でいちばん影響を受けているのはやはりエタジェイムスでしょうね。
>エタのTell Mama なんてかなり似ていますよ。
聴きました。なるほどでした。
この時代のR&Bと、R&B寄りのロックの差は非常に少ないですね。
>中年になってすごく太ったエタジェイムスの映像を観た時「あぁジャニスも生きていたらこんな感じになってたかもね〜」と思いました。
元々おデブちゃんだったわけですからね。
しかし、黒人の太り方は白人とはまた違って凄いですね。
>こちらは今日は暑さも少しマシですが盆地ですからね、暑いです!
そう、盆地・扇状地は暑いです。
県庁のある前橋や、端のほうの太田・伊勢崎といった辺りは記録的な暑さを出すところ。今年も一回くらい40度を超えたはず。
僕のところは山なので大分涼しいですが、それでも昼間は東京より暑いくらいです。
ついでに、冬は風(空っ風、山おろし)で悪名高い。高校生時代、10kmほどある自転車通学では苦労しました。
「Rocks The House」(これも凄いですよ。文字通りライブハウスが揺れてそうです)あたりのレビューをチェックしてみましたがここ最近レビュー数が増えてきました。「キャデラック レコード」の影響でしょうか。
読んでみるとジャニスについて言及している人を2、3見かけました。
私は50年前に既に両方を並行して聴いていたのに全くそう言う関係性について思いが行きませんでした。こちらの情報不足だったという事にしておきましょう…
音響系にお勤めでしたか。私の昔の勤め先はジャニスやボブディランのレコードは20%引きで買えましたね。就職した時点ではジャニスは全部持ってましたけれど。
辞める時、餞別にレコードを貰いましたよ。
>「キャデラック レコード」の影響でしょうか。
そうかもしれません。
ロックばかり聴いていた僕もこの映画で名前を知ったくらいですから^^;
あの映画の後 At last を買いました。
お薦めのアルバムはYouTubeからダウンロードします。ライブは大概連続するので編集作業が色々あるのだけれど、これもまた楽しい。時々トラックのつなぎ目で(ノイズが出ないように編集しているのに)ノイズが入ることがあるのが残念なんですが。
>私は50年前に既に両方を並行して聴いていたのに全くそう言う関係性について思いが行きませんでした。こちらの情報不足だったという事にしておきましょう…
突然閃くということがままありますね。
>音響系にお勤めでしたか。
そうですよ。
前にも話したような(笑)
>私の昔の勤め先はジャニスやボブディランのレコードは20%引きで買えましたね。
良いなあ。どういう勤め先ですか?
前にも訊いたような気がしますが、僕も忘れました(笑)
遅れてきた青年ですから、ディランのブラック・ディスクは、吉田拓郎が一生懸命真似した「ブロンド・オン・ブロンド」と「追憶のハイウェイ61」だけ。これはCDでも持っていますが、他はCDのみ。
ジャニスにボブディランといえばどちらもマネージャーがかの有名なアルバートグロスマンで日本ではCBS/SONYから出ていまして、そこのグループ会社にいました。
半分外資でしたが今はお別れになったようです。
なので親方ソニーの物も20%オフというケチ臭い条件で買えましたが、誰も買わなかった…^_^ レコードは本と同じく再販禁止でしたからたまに買っていたような記憶があります。
>日本ではCBS/SONYから出ていまして、そこのグループ会社にいました。
解りました^^
レコードの20%オフは有難いですね。