映画評「燃える平原児」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1960年アメリカ映画 監督ドン・シーゲル
ネタバレあり

中学生の時にTVで観た。エルヴィス・プレスリーの主演映画の中で数少ないドラマらしいドラマのある西部劇である。

1878年テキサス州。牧場主ジョン・マッキンタイアの長男スティーヴ・フォレストの誕生会に、恋人バーバラ・イーデンやその兄弟たちが招かれるが、その帰途途中で兄弟たちがカイオワ族に殺される。
 カイオワ族の新酋長に周囲をうろちょろされたフォレストとその弟プレスリーが襲撃に備えて銃弾を買いに町まで行くが、白い目で見られる。というのも、牧場主の妻ドロレス・デル・リオがカイオワ族出身なので一家が襲われないと思い込んでいるのだ。フォレストは白人の前妻の息子、プレスリーはドロレスの息子である。
 新酋長が周囲をうろつくのはこのハーフ息子を仲間に入れたいと思っているからで、次男にその気は余りないが、母親が白人に撃たれた後医者が来診するのを邪魔された為に死んでしまった結果、彼は新酋長側に付く。しかし、約束に反して兄が襲撃された時に重傷の兄と共に家に戻るや、兄から父親は既に殺されたと知らされ、復讐の為にカイオワ族に向かっていく。

1960年12月に公開された本作より半年以上前60年春に公開された「許されざる者」に構図的に似た内容で、インディアンを家族に持つ者の複雑な状態や心境を描いている。この頃からインディアンへの同情がリベラルなハリウッド関係者に明確に生まれた来たということだろう。

「許されざる者」を差別映画と決めつけるのは内容を正確に理解していない人の結論と言うしかないのだが、“自分と異なる者への偏見” について明確に言及している本作の方がそういう誤解を招く要素は少ないかもしれない。

ドン・シーゲルはさすがにきちんと展開しているものの、終盤の新酋長の約束をめぐる部分が舌足らずに感じられる。IMDb等による上映時間が101分なのに対し、92分という放映時間(現在観られるDVD等は全てこの時間)に何か問題があるのかもしれない。
 9分が意図的にカットされたものなのか、資料の問題なのか解らないが、新酋長が約束を反故にしたわけではなく、配下の者が勝手に牛を襲って牧場主を殺した事実を考えると、その9分の間に、その後の新酋長の反応などがあった可能性はある。

プレスリーは、オープニング・クレジットの主題歌と、冒頭の誕生会で実際音楽として歌うだけで、ミュージカル的な作りが一切されていない。また演技も他の映画のような大芝居ではなく、ぐっと映画らしく抑制的で性格演技に努めている感じ。主演映画の中で演技としてはベスト・パフォーマンスではないかと思う。

プライム・ビデオ等での古い映画は原語に忠実であるが、NHKやWOWOWでは相変わらず Indian は“先住民”と対訳される。しかし、土地を巡って争っている人々に対し “先住民” と言うのは内容に対して齟齬がある。当時テキサスに先住民も現住民もなかったはずである。ロシアに支配された土地に住むウクライナ人に対して今、先住民と言ったら彼らはどう思うだろうか?

米国内でまだインディアン居留地といった用語を使われていることに対して、それだけ差別意識が残っているのだと仰る方がいるが、実際には他の先住民と区別しているだけであろう。他の先住民即ちエスキモー/イヌイットやハワイのカナカ族はこの居留地とは無関係であるわけだから。

この記事へのコメント

蟷螂の斧
2024年08月09日 16:56
こんにちは。以前BSから録画したこの作品をようやく見ました。
プレスリー映画と言えば「歌と美女だけ」と貶す人が多かったですが、この作品は面白かったです。やはりドン・シーゲル監督の手腕でしょうか?

長男の誕生日会。参加者が料理の美味しさを褒める。しかし、「まるで白人の作った料理みたいだ。」と言われてちょっと傷ついた表情のドロレス・デル・リオ。その後、彼女が「もっとケーキをどうぞ。」と言っても「もう帰る。」と言う参加者たち。悲しかったです。「もう遅いから我が家に泊まっていったら?」と言われても帰ってしまう。
その後に争いの発端となる事件が起きるんですね・・・。
オカピー
2024年08月10日 01:07
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>プレスリー映画と言えば「歌と美女だけ」と貶す人が多かったですが、この作品は面白かったです。

中高時代、僕はそういうタイプの映画も好きだったです。ただ、何を観ても似たようなものなので、後期になればなるほど二番煎じの感が強くなりましたね。
女優がつまらないと、映画もつまらないという傾向がありましたよ。

>やはりドン・シーゲル監督の手腕でしょうか?

ドン・シーゲルの名を出して褒めていながらこんなことを言うのも何ですが、難しいところですね。
アメリカの職業監督に殆ど編集権を持つ人はいなかったので、シーゲルもそうだったかもしれない。ただ、後年の秀作群と似た歯切れやタッチが見られるので、僕はシーゲルの腕前として評価しておきました。
蟷螂の斧
2024年08月11日 07:43
おはようございます。「許されざる者」は、まだ見てないんですよね・・・。また順番が逆になっていました。

他のブログの管理人さんが仰っていた事ですが、「プレスリー自身は映画の中で歌わない映画、つまり演技に徹する作品に出演することを望んでいた」そうですね。この作品でそれが果たされた。シーゲル監督の意向だった。

昨日、オカピー教授のコメントを読んだ後に双葉師匠の本を読みました。この役がプレスリーに合っている。芝居らしい演技がなく、表情もあまり変えないのが却っていいと仰っていますね。

>中高時代、僕はそういうタイプの映画も好きだったです。

僕は「ラスベガス万才」が結構好きです。
https://www.youtube.com/watch?v=XH2K9N16VMY

オカピー
2024年08月11日 18:17
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>「プレスリー自身は映画の中で歌わない映画、つまり演技に徹する作品に出演することを望んでいた」そうですね。

それは十分ありえますね。

>この作品でそれが果たされた。シーゲル監督の意向だった。

当時はまだスターシステム時代ですから、ヒッチコックやジョン・フォードくらいしか自分好みの俳優を使えなかったでしょうが、シーゲル親父がその一端を担えたのなら素晴らしい。

>僕は「ラスベガス万才」が結構好きです。

僕もミュージカル・スタイルの映画の中で一番好きですね。
スウェーデン出身の爆弾娘アン=マーグレットの貢献度が高い。

この記事へのトラックバック