映画評「洞窟」

☆☆(4点/10点満点中)
2021年イタリア=フランス=ドイツ合作映画 監督ミケランジェロ・フランマルティーノ
ネタバレあり

ミケランジェロ・フランマルティーノを観るのは二作目である。
 前回の「四つのいのち」の時に、映画批評なるは経験による基準があって初めて可能となる旨書いた。「四つのいのち」はそれくらい比較する作品がない映画だったわけだが、その意味において今回は「四つのいのち」と比較することができる。
 とは言え、やはり変な作風で、またも台詞がない。

舞台は前回と同じくイタリアのカラブリア州。カルスト地形の荒れた大地の場所で、縦型洞窟の調査探検が行われる。その傍では、羊飼いの老人が羊に向けて大声を出している。
 後半、老人は倒れてやがて死んでいく。他方、調査は進んで遂に最深部に辿り着き、深さが確定する。

というのがお話と言えばお話だが、基本的にはイメージ(画面)を見る作品で、陽光射す大地と僅かな照明で照らされる暗い洞窟の対照が印象深い。
 対照と言えば、他にも幾つかの対照と相似がある。映画の序盤の方で、高層ビルをのぼる映像が出てくるのは言うまでもなく洞窟に対して上下の対照である。洞窟探査の研究者も仕事が終われば昇って行くという相似がある。老羊飼いが羊に掛ける声は、洞窟の上下で掛け合う声と相似する一方、老人は進行する洞窟調査に関与することは一切なく死んでいくという対比がある。

画面ではカラブリア州のカルスト地形が美しく捉えられていて、タヴィアーニ兄弟の作品を想起させるところがある。

しかるに、台詞がなく環境映画とでも言いたくなるような作り方では退屈を禁じ得ない。前回評価に悩いながら☆☆☆★と言う少なくない星を進呈したが、今回は大衆映画ファンに対するガイドの立場を優先して上記採点に留めた。作品の価値が前作に劣るものではない、とお察しあれ。

映画祭で紹介されているが、当ブログの規定では日本劇場未公開作に相当する。

洞窟よりドーナツの方が良いという方にはお勧めできません。

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