映画評「獣の剣」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1965年日本映画 監督・五社英雄
ネタバレあり

Filmarksの某氏と違い、 allcinemaの某氏と同じく、僕は五社英雄を余り評価しないが、WOWOWが小特集を組んだので全作保存して観てみる。その第一弾で、彼の映画第二作。

幕末。掛川藩の下級藩士・平木弦之助(平幹二朗)は、次席家老(天知茂)の口車に乗って、城代家老に改革を訴えたものの、すげなく退けられた為に切り殺すが、頼りの次席家老は自分の出世しか興味がない。嵌められたと知っても時既に遅し、脱藩する。娘・美沙(木村利恵)やその許婚(菅貫太郎)らが仇討の為に追って来る。
 弦之助は、途中で知り合った善良な山師志願・丹次(田中邦衛)をお供に連れて砂金盗掘で色々出入りのある山奥に入り、藩の指示で盗掘を続ける別藩の郷士山根十郎太(加藤剛)とその妻タカ(岩下志麻)と知り合う。来る者全てをけちらす山根は、単に砂金を狙ってやって来たのではない弦之助とは斬り合わない。
 弦之助は、女間者(三原葉子)からかの藩は役を終えるや否や山根夫婦を殺害することを教えられて駆けつけるが、結局夫婦は殺されてしまう。夫婦の運命に自分を重ねた彼は藩の関係者を皆殺しにする。
 その様子を眺めていた美沙と許婚はもはや仇討する気も消え失せる。弦之助は二人の前を通り過ぎてどこともなく去って行く。

三人(藩に利用された二者とその一人に絡んだ一人)の侍を通して、武士道残酷物語、というよりは封建社会の欺瞞を描いてみせた内容で、五社監督の劇場用映画デビュー作「三匹の侍」よりタイトに作られていると思い、★一つ多く進呈した次第。

登場人物の心理としては、凄腕の剣術の力を持ちながら仇討しようとやって来る者となるべく関わり合わないようにする主人公・弦之助より、妻タカに対する山根の揺れる心情が興味深く描かれている。

画面では、映画に進出した後の力みのせいか前半極端なローアングルのカメラが目立ちすぎるのが良くないが、後半は大して気にならない。野外の場面が多いせいで、それに反比例して多分減ったのであろう。

活劇としては河原でのアクションが白眉であろうか。田中邦衛(の恐らくスタントマン)が大きな岩石に全身を打ち付けるのが(あっさりと処理されていたが)痛そうでこちらが縮み上がった。

題名の読み方は四通りの可能性があるが、松竹によれば、”けだもののけん”らしい。僕も漢字の読み方の常識に従ってそう読んだ。洋画では剣を“つるぎ”と読ませることがままあるが、一般的な時代劇では“けん”だろう。

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