映画評「老後の資金がありません!」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2021年日本映画 監督・前田哲
ネタバレあり

垣谷美雨なる作家の小説を映画化したコメディー。一種の社会派映画と言えないこともない。

大学4年生の息子・瀬戸利樹と2歳年上の娘・新川優愛を持つ熟年夫婦のお話。
 主人公は細君の天海祐希で、彼女自身は堅実派だが、夫・松重豊は家計に無頓着。そんな折に舅が死去し、母親・草笛光子のケアをしてきた夫の妹・若村麻由美からその葬儀費を押し付けられる。これにより老後資金は300万円程度に減る。
 そこへ、娘が結婚すると恋人・加藤諒を連れて来る。相手は地方の実業家一家で、身分不相応な豪華な結婚披露宴をやることになる。ケア・マンションに暮らしている義母への仕送りが厳しい彼女は、仕送りが減る方がベターと家に迎え入れることにする。が、贅沢好きの彼女のカードは常に残金なしで、負担が減るどころではない。母親はオレオレ詐欺にも引っかかってしまう。
 既にバイトを首になっていた彼女に加え、夫の会社が倒産、頼りにしていた退職金も貰えない。事務系だった夫は慣れない警備員の仕事に就き、その先輩に連れられて着いたのが彼がシェアハウスする家である。

映画はこの辺りからムードを変えていく。

ヨガ仲間の柴田理恵から頼まれた年金詐欺(正確には詐欺ではない)に嫁と共に協力した義母は狭心症を発症し、生前葬を行うと宣言。これはヨガの先生の敷地を借りて殆ど出費なく済む。義母は、仕事で不在(もちろん口実にすぎない)の嫁に対して感謝の辞を述べる。これに影響を受けた妹は自分が母親を引き取ると言い出す。
 母親のいなくなった夫婦は返済費用よりは高く家を売ってシェアハウスに移り住む。

日本の平均的家庭ではある程度の年齢になると、冠婚葬祭の出費が多くなるということをよく表す内容である。観客は笑って観てしまうが、現実にこんな目にあったらとても笑うことは出来ない。勿論作者はそれを承知で作っているから、僕は一種の社会派映画であると言ったのである。

前半夫婦にとっての不幸・不運が続いた後、終盤は一気に幸運が舞い込む、という作劇は極端に過ぎるが、若い頃同じような作劇で大いに非難した「我が家は楽し」(1951年)と違って、本作は布石(シェアハウスの紹介など)がきちんとしているので、首を傾げるには至らない。
 寧ろ勉強になることが多く、天海祐希と草笛光子を巡る楽屋落ち的な台詞や見せ場は楽しい。

が、内容が先行する余り、AllcinemaでKE氏が述べるように、映画らしさが希薄。面白いが映画ならではの醍醐味を感じることはほぼないということである。

映画らしさとは何かと言われれば難しいが、僕の場合は、カットの繋ぎ(カット割り)や場面の繋ぎの呼吸、映画言語の扱いの良さを指すことが多い。

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