映画評「名もなき歌」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2019年ペルー=スペイン=アメリカ=スイス合作映画 監督メリーナ・レオン
ネタバレあり

合作であるが、実質ペルー映画である。実に珍しい。昨日の映画に似て、脚本・監督メリーナ・レオンが、新聞記者の父親が30年くらい前に遭遇した経験を基に書かれたらしい。

1988年のペルー。インディオ一部族の貧しい夫婦が産んだばかりの娘を産院で失う。二十歳の細君ヘオルヒナ(パメラ・メンドーサ)は懸命に赤子を探そうと、警察や裁判所は相手にしない。こうしているうちに仕事を失った夫君レオ(ルシオ・ロハス)は左派テロリストに傾いていき、彼女の許から去って行く。
 諦めない彼女は新聞社に行き、ペドロ(トミー・ベラッガ)という記者に事件について語る。彼は産院の宣伝をしたラジオ局などを訪れ、彼女と似た境遇の経産婦とも会うなどするうち、怪しい産院が現れたアマゾンに近い或る地区に赴くが、自分の赤子を売った経験のある女性から産院について調べるのは危険と遠回しに言われる。
 しかし、記者が調査結果を報道した結果、関わった医師夫婦と有力者が逮捕される。事件は明るみに出ても、夫が消え子供を取り戻せないヘオルヒナは孤独にさいなまれ、悲しい歌を口ずさむしかない。

画面は昔の映画のように周囲のエッジをそがれたアスペクト比ほぼ4:3のモノクロで、これが詩情を醸し出し、厳しいお話の現実味を和らげる効果がありそうだ。余りやりきれないのも困る。その意味で、僕はこの画面を大いに買いたい。

ペルーのような貧しい国において弱者の周囲で起きがちであった(であろう)乳児売買を軸に、民族・ジェンダー・性的指向・経済の格差や差別が垣間見える作り方が為されているが、このお話の展開において記者を敢えてゲイにする必要性は感じない。乳児売買にかかわる基幹的な問題(民族・経済的格差)に絞るべきで、作為的にすぎる気がする。
 とは言え、ペルーの女性監督もなかなかやります。

孤独の歌。

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