映画評「総理の夫」
☆☆★(5点/10点満点中)
2021年日本映画 監督・河合勇人
ネタバレあり
政界をテーマにした作品は日本ではなかなか作られなかったが、ここへ来て「記憶にございません!」が作られ、そして本作である。コメディーでお茶を濁している感が無きにしも非ずとは言いながら、風刺をするのはコメディーが適しているのは言うまでもない。
本作は政界・政治風刺というよりは、日本の男尊女卑の風潮への皮肉が重心にあるように感じられる。日本のジェンダー指数は世界の中でも低く、それに大きく貢献している政界の女性議員の少ない現実が多分に意識されている。原作は原田マハの小説。
少数政党・直進党の女性党首中谷美紀が、岸部一徳が党首を務める民心党と連立を組んで与党となり、遂に日本初の女性首相となる。
これに振り回されるのが彼女の年下の夫で鳥類研究家の田中圭という構図で進むが、主人公は夫君である。女性に理解があるというか軟弱な男性を主人公にすることで、女性の問題を相対化する意識があるように見える。
彼以外の男性は多分に旧態依然の思想の持主らしいが、保守的に見える彼の母親で大企業の実権者たる余貴美子はそこはかとなく嫁の味方である。
日本では互いに密接な関係にある政財界が共に男性中心主義なので、どちらにおいても女性差別がなかなか消えないのが現状であるが、世界史を紐解き世界の現状を調べてみても、女性を重視している国の方が一早くあるいは大きく経済発展しているわけで、アフガニスタンはタリバンが支配する限り開発途上国にすらなれないであろう。
自民党の右派は懸命に女性の足を引っ張り、日本国の発展を阻んでいる。中には女性(一部で認定男子と呼ばれているらしい)議員もいるのだから、困ったものだ。
従って、この映画の描こうとした内容は大いに認めたい。フェミニズムに力み返っていないのも好感が持てる。
他方、本作の設定では妊娠は辞める事由にならない筈なのに、個人的事情が中心とは言え簡単に辞任を決意するのは今一つ腑に落ちず、それ以上に、夫君が会見場へ乗り込むシークエンスは日本映画の悪い癖が出て大袈裟で鼻白ませ、良くない。男尊女卑への皮肉をちらつかせつつ性差別の問題を超えた、政治をめぐるちょっとした権謀術数がそれなりに楽しめていた後だけに残念。
監督は河合勇人で、他に1~2作見た程度だが、本作では場面が一々字余り的で僕とリズムが合わない。この字余りを解消するだけでも10分がとこ短くできたと思う。
デモに発展したイランの事件も悲しいねえ。道徳警察なんてのが存在すること自体がもはや時代遅れだよ。“女性の為”を常套句に女性を圧迫し、結果的に自国の発展を阻害しているのは原理主義者だ。この原理主義というのは教えに忠実を意味しない。
2021年日本映画 監督・河合勇人
ネタバレあり
政界をテーマにした作品は日本ではなかなか作られなかったが、ここへ来て「記憶にございません!」が作られ、そして本作である。コメディーでお茶を濁している感が無きにしも非ずとは言いながら、風刺をするのはコメディーが適しているのは言うまでもない。
本作は政界・政治風刺というよりは、日本の男尊女卑の風潮への皮肉が重心にあるように感じられる。日本のジェンダー指数は世界の中でも低く、それに大きく貢献している政界の女性議員の少ない現実が多分に意識されている。原作は原田マハの小説。
少数政党・直進党の女性党首中谷美紀が、岸部一徳が党首を務める民心党と連立を組んで与党となり、遂に日本初の女性首相となる。
これに振り回されるのが彼女の年下の夫で鳥類研究家の田中圭という構図で進むが、主人公は夫君である。女性に理解があるというか軟弱な男性を主人公にすることで、女性の問題を相対化する意識があるように見える。
彼以外の男性は多分に旧態依然の思想の持主らしいが、保守的に見える彼の母親で大企業の実権者たる余貴美子はそこはかとなく嫁の味方である。
日本では互いに密接な関係にある政財界が共に男性中心主義なので、どちらにおいても女性差別がなかなか消えないのが現状であるが、世界史を紐解き世界の現状を調べてみても、女性を重視している国の方が一早くあるいは大きく経済発展しているわけで、アフガニスタンはタリバンが支配する限り開発途上国にすらなれないであろう。
自民党の右派は懸命に女性の足を引っ張り、日本国の発展を阻んでいる。中には女性(一部で認定男子と呼ばれているらしい)議員もいるのだから、困ったものだ。
従って、この映画の描こうとした内容は大いに認めたい。フェミニズムに力み返っていないのも好感が持てる。
他方、本作の設定では妊娠は辞める事由にならない筈なのに、個人的事情が中心とは言え簡単に辞任を決意するのは今一つ腑に落ちず、それ以上に、夫君が会見場へ乗り込むシークエンスは日本映画の悪い癖が出て大袈裟で鼻白ませ、良くない。男尊女卑への皮肉をちらつかせつつ性差別の問題を超えた、政治をめぐるちょっとした権謀術数がそれなりに楽しめていた後だけに残念。
監督は河合勇人で、他に1~2作見た程度だが、本作では場面が一々字余り的で僕とリズムが合わない。この字余りを解消するだけでも10分がとこ短くできたと思う。
デモに発展したイランの事件も悲しいねえ。道徳警察なんてのが存在すること自体がもはや時代遅れだよ。“女性の為”を常套句に女性を圧迫し、結果的に自国の発展を阻害しているのは原理主義者だ。この原理主義というのは教えに忠実を意味しない。
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