映画評「竜とそばかすの姫」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2021年日本映画 監督・細田守
ネタバレあり

2か月前にWOWOWで放映された時に録画したものを持っているし、地上波放映があったばかりだが、節電の為にプライム・ビデオを選んて観た。

3年のスパンで新作発表が続いている細田守監督の新作アニメで、先日の「マトリックス レザレクション」に続いてまたも仮想空間が絡んでくる物語である。
 しかし、こちらはあちらほどややこしくなく、脳の衰えを禁じ得ないロートルには有難い。

幼女の時に水難した子供を助けようとした母親を失って歌すら歌えなくなったヒロインすず(声:中村佳穂)は、数少ない親友のヒロちゃん(声:幾田りら)の支援で、全世界に普及したアプリにおける仮想世界 “U” で自分が投影されているがまるで別の姿を見せる分身 “As” のベルになる。ベルことすずはこの世界では思うように歌うことができ、その不思議な歌唱で思わぬ人気者になって行く。
 が、彼女の公演を、竜と呼ばれる乱暴な醜い怪物が邪魔をした結果、彼の正体を暴け (unveil) しろという声が “U” を席巻、これに応じて自衛グループが彼の正体を暴こうと動き出す。ベルは城にひっそり暮らす竜に接触し、心に苦しみを抱える彼を守ろうと自衛グループを向うに回す。
 一方、現実世界では、幼馴染で同級生のしのぶくん(声:成田凌)や、ベルの外見の下地になった美人同窓生ルカちゃん(声:玉城ティナ)との交流が色々と出てくる。
 やがて、竜の正体に気づいたすずは、既にベルの正体を知っている友人・知人たちの援助の下、竜であるDV被害の少年・恵(=けい=声:佐藤健)を父親の暴力から救助しようと奮闘する。

簡単に言えば、仮想世界の「美女と野獣」である。
 仮想現実を扱った映画も、初期と違って近年では、現実世界との隣接関係が濃厚になり、その意味では夢落ちのような虚しさを感じることもなく楽しめる作品が多くなってきた。本作もハイライトは仮想世界から現実世界に主軸を移して展開、ヒロインの成長記として収斂する青春映画の構図となっていて、同世代の素直な少年少女には大いに受けそうな内容でござる。
 僕のようなロートルには、終盤の展開はかなり乱暴に感じられるものの、爽やかな終わり方ではあります。

ヒロインすずも相手の竜(恵)も母親を失った家庭であるという相似形を示すと同時に、片方が娘を静かに見守ろうとする父親、片方が暴力的な父親であるという対照を知ったことにより、父親に対するすずの態度が最後にあのように素直になったのであろう。年齢・立場から言って父親の嬉しさを感じずにはいられない僕である。

ベルは”すず”であり、フランス語の”美女”でもあるという掛詞。

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