映画評「いぬ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1962年フランス映画 監督ジャン=ピエール・メルヴィル
ネタバレあり

ジャン=ピエール・メルヴィルのフレンチ・フィルム・ノワール。珍しくも初鑑賞。

強盗犯セルジュ・レジアニが刑務所を出、服役中に妻を殺したと確信した仲間ルネ・ルフェーヴルを射殺する。その後警察の犬という噂のあるジャン=ポール・ベルモンドの小道具提供の支援を得て、相棒と次の仕事に取り掛かるが、密告を受けて現れた官憲に追われ、相手を殺すも相棒を失う。
 ベルモンドは彼の愛人モニーク・エネシーを脅迫し、仕事場を突き止めている(意図的なミスリード)。やがてモニークも殺され、レジアニはベルモンドが密告屋と疑う。再び入獄する羽目になると、同房の男にベルモンドの自宅での殺害を持ちかける。
 しかし、出所した彼にベルモンドが言うには、モニークこそ密告した人物で、その為に彼が殺したと告げる。誤解に気付いたレジアニは雨中車を飛ばして彼の家に駆け付けるが、同房の男に撃たれる。僅かに遅れて家に戻ったベルモンドは殺し屋を殺すものの、彼もまた二人の後を追うことになる。

こう書くと解りにくいところはないように思われるだろうが、実際にはクラブ経営者のミシェル・ピッコリなども出て来て、レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説の映画化のように人物の相関図を理解するのに苦労を強いられるのが欠点。
 本作は画面を優先して評価した方が良い作品とは思うものの、ここまで解りにくく作られては良い顔は出来ない。チャンドラーの映画化作品が意図的に解りにくく作られているわけではないのとはちょっと事情が違うのである。

黒光りするような画面はそれだけで魅力的で、主人公をピッコリを撃つ時の拳銃の見せ方はまるでサイレント映画のようで実に興味深い。帽子(帽子は時に警察の犬を暗示する)に意識を向けさせるようなカメラも良い。
 メルヴィルが自信を持って作ったらしい尋問場面の長回しには気づかなった。当時の批評家も同様だったらしいが、言い訳をすれば、解りにくい物語の映画を観ると頭がそちらに傾きすぎる余り時にこういうことが起こり得る。脚本を書いたメルヴィルにも責任の一端はあるということでござる。

台詞のない場面が良い。メルヴィルは台詞の多い場面は良くないと感じる。

この記事へのコメント

2022年10月08日 17:26
>レイモンド・チャンドラー

わかりにくさは原作に問題があるのではと私は思っている。
チャンドラー、文体がいいのか妙に評価が高いですが、正直なぜかよくわからない。
オカピー
2022年10月08日 22:45
nesskoさん、こんにちは。

>わかりにくさは原作に問題があるのではと私は思っている。

その通りだと思います。人物関係が本当に解りにくい。
小説の場合は読み返しつつ進むことが出来るからまだ良いですが、それをベースに作られた映画はいくら解りやすく作っても限度がありますよね。

>チャンドラー、文体がいいのか妙に評価が高いですが、正直なぜかよくわからない。

僕もそれほどご贔屓にはできません。
ハードボイルド小説では、双璧と言われるダシェル・ハメットのほうが解りやすくて、僕は好きですね。早く引退状態になったのが残念。