映画評「スティルウォーター」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2021年アメリカ映画 監督トム・マッカーシー
ネタバレあり
留学先のフランスはマルセイユで同棲中の相手(女性)を殺害した罪で服役中の娘アビゲイル・ブリセリンを釈放させようとアメリカから渡仏し、東奔西走する父親マット・デイモンの姿を追う物語。
この基本設定自体は、よくあるもので新味はないが、その外形の経緯以上に、主人公の心情に焦点を当てたアプローチがよろしく、心に沁みるところが少なくない。
彼はアパートの隣に住む舞台女優カミーユ・コッタンと親しくなり、英語のできない関係者・目撃者の通訳を頼むなどするうち親しくなり、娘リルー・ショヴォウと疑似親子のような関係を構築していく。
再審の見込みのないなか、カミーユの親友の協力の結果、ネット上にアップされていたパーティーの写真を娘に見せ、彼女が犯人と信ずる男を特定する。リルーと彼女の好きなサッカーを観に行った帰りその男を目撃、リルーをうまく誤魔化しながら男を追跡して昏倒させ、地下の道具部屋に監禁する。男から採取した髪の毛を元刑事の探偵に渡し、DNA鑑定を依頼する。
やがて、担当の弁護士から容疑者不在でもアビゲイル釈放の可能性が出て来たと告げられる。結果として、母娘を巻き込む監禁に怒ったカミーユに家を追い出され、釈放された娘と共に帰国する。
この映画の核は、コミュニケーションの問題である。
母親の自殺の後娘とのコミュニケーション不足が恐らく彼女の海外留学という結果をもたらし、挙句娘は殺人の容疑者となったと思われる。父親はその娘を救おうと懸命になった結果、フランス人の少女と殆ど意図しないうちにコミュニケーションを深めていくわけである。意図しないと言っても、自責の念を禁じ得ない彼が、深層心理的にその反省を少女に投影していたのは想像に難くない。
ここに文字通りの疑似父娘の関係が生じるが、その別れは本当の娘とバーターする形で生じる。その関係の発生も終焉も娘がもたらしたわけで、娘を取り戻しアメリカでフランスの母娘を追想する彼はそのことをよく理解し、半ば快い寂しさに身を沈める。
監督は「扉をたたく人」(2007年)で僕を感心させたトム・マッカーシーで、心情描出に傾倒する時に良い腕前を発揮する。その面に限れば本作は秀作と言って良い。
一方で、犯罪面での詰めが少々甘い感じがする。しかるに、ある人が疑問を呈する、監禁された若者が警察に駆け込まない理由は明らかである。今や証拠である髪の毛を採取された彼が警察に飛び込めば、デーモンを逮捕させることもできる代わりに殺人の実行犯であることが明らかになるので逃げた可能性が高い。
その採取と娘の釈放との関係性がよく解らないのが左脳人間の気持ちをムズムズさせるが、かの探偵が地下室が怪しいと警察に報告すると同時に担当弁護士にDNA照合の結果を提示したのではないか。裁判所がそう簡単に受け付けるとも思えないが、フランスの司法については解らないので何とも言えぬ。
サイト内検索がウェブリ時代に比べてぐっと良くなった。もう探偵は要らない感じ。
2021年アメリカ映画 監督トム・マッカーシー
ネタバレあり
留学先のフランスはマルセイユで同棲中の相手(女性)を殺害した罪で服役中の娘アビゲイル・ブリセリンを釈放させようとアメリカから渡仏し、東奔西走する父親マット・デイモンの姿を追う物語。
この基本設定自体は、よくあるもので新味はないが、その外形の経緯以上に、主人公の心情に焦点を当てたアプローチがよろしく、心に沁みるところが少なくない。
彼はアパートの隣に住む舞台女優カミーユ・コッタンと親しくなり、英語のできない関係者・目撃者の通訳を頼むなどするうち親しくなり、娘リルー・ショヴォウと疑似親子のような関係を構築していく。
再審の見込みのないなか、カミーユの親友の協力の結果、ネット上にアップされていたパーティーの写真を娘に見せ、彼女が犯人と信ずる男を特定する。リルーと彼女の好きなサッカーを観に行った帰りその男を目撃、リルーをうまく誤魔化しながら男を追跡して昏倒させ、地下の道具部屋に監禁する。男から採取した髪の毛を元刑事の探偵に渡し、DNA鑑定を依頼する。
やがて、担当の弁護士から容疑者不在でもアビゲイル釈放の可能性が出て来たと告げられる。結果として、母娘を巻き込む監禁に怒ったカミーユに家を追い出され、釈放された娘と共に帰国する。
この映画の核は、コミュニケーションの問題である。
母親の自殺の後娘とのコミュニケーション不足が恐らく彼女の海外留学という結果をもたらし、挙句娘は殺人の容疑者となったと思われる。父親はその娘を救おうと懸命になった結果、フランス人の少女と殆ど意図しないうちにコミュニケーションを深めていくわけである。意図しないと言っても、自責の念を禁じ得ない彼が、深層心理的にその反省を少女に投影していたのは想像に難くない。
ここに文字通りの疑似父娘の関係が生じるが、その別れは本当の娘とバーターする形で生じる。その関係の発生も終焉も娘がもたらしたわけで、娘を取り戻しアメリカでフランスの母娘を追想する彼はそのことをよく理解し、半ば快い寂しさに身を沈める。
監督は「扉をたたく人」(2007年)で僕を感心させたトム・マッカーシーで、心情描出に傾倒する時に良い腕前を発揮する。その面に限れば本作は秀作と言って良い。
一方で、犯罪面での詰めが少々甘い感じがする。しかるに、ある人が疑問を呈する、監禁された若者が警察に駆け込まない理由は明らかである。今や証拠である髪の毛を採取された彼が警察に飛び込めば、デーモンを逮捕させることもできる代わりに殺人の実行犯であることが明らかになるので逃げた可能性が高い。
その採取と娘の釈放との関係性がよく解らないのが左脳人間の気持ちをムズムズさせるが、かの探偵が地下室が怪しいと警察に報告すると同時に担当弁護士にDNA照合の結果を提示したのではないか。裁判所がそう簡単に受け付けるとも思えないが、フランスの司法については解らないので何とも言えぬ。
サイト内検索がウェブリ時代に比べてぐっと良くなった。もう探偵は要らない感じ。
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