映画評「アメリカン・ユートピア」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2020年アメリカ映画 監督スパイク・リー
ネタバレあり

トーキング・ヘッズは僕が大学時代に出て来たニューウェーブ系のバンドで、時にアフリカ音楽への指向も示すなどして興味深かった。90分のカセットテープ1巻に彼らの楽曲を保存、今でもどこかにあるはずだが、その後CD5枚を揃えたので、それを聴くことはあるまい。

トーキング・ヘッズのサウンドは殆どそのリーダーたるデーヴィッド・バーンのセンスによるものと言って良いのだろう。バーンのソロは聴いたことがないが、割合新しいLP「アメリカン・ユートピア」を基にステージ化された本作を見れば(聞けば)、やはりそんな感じがする。パーカッションの多用を考えてもかつての僕がかつて感じたアフリカ音楽指向が相変わらず伺える。

映画の紹介の前に余分なことを言ってしまったが、そう、本作はブロードウェイのショーをカメラに収めたものである。
 進行役と中心たるヴォーカルはバーン本人がこなすが、Once in a Lifetime はトーキング・ヘッズ時代の有名曲で、他に二、三古い曲も使われている。

スパイク・リーが監督をするまでもない一方、アメリカ風刺・批判と政治への関心を示す内容を考えれば、監督がそこに興味を覚えて、このステージを撮ったのだと思われる。
 とりわけ、その古い曲の一つ Everybody's Coming to My House は、アメリカを自分の家に喩えて移民歓迎を訴える。但し、それはバーンの歌詞本来の意味ではなく、当時のバーンはやって来てなかなか帰らない友人たちへの嫌味をこめていた、とステージ上で本人が語っている。
 しかし、このステージでの意味は、終盤に出てくる殺された黒人たちへのレクイエム Hell You Talmbout(What the hell are you talking about のことだろう)の人種・民族差別批判と重ねてみれば、自明という次第。

しかし、何よりも演奏と踊りが一体となった舞台が素晴らしい。ヴォーカルはバーンを筆頭に基本的に三人だが、その三人は演奏もできる。他の楽器演奏者は踊りながら演奏し、Road to Nowhere のアカペラ部分にも参加する。

映画ファンより音楽ファンに勧めたい。ミュージカル好きにも行けるでしょう。

題名の正しい表記法(capitalization rules)を理解していない人が英米人にも多いのでここで説明。冠詞、4字以下の前置詞・等位接続詞(and, orなど)の語頭は句の途中にある場合小文字。但し、最後の単語になる場合は大文字である。Once in a Lifetime を Once In A Lifetimeと書いてはいけないのでござる。

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