映画評「ノイズ」(2022年)
☆☆☆(6点/10点満点中)
2022年日本映画 監督・廣木隆一
ネタバレあり
筒井哲也なる漫画家によるコミックを映画化した本作は、従来の二つのサスペンス映画のタイプを合わせたようなところがあり、そこがなかなか面白い。型通りという世評に僕は与しない。少なくとも、骨格の部分は一見型通りで、実は型通りではないのである。
そのタイプの一つとは、ある家に異分子たる一人もしく一つのグループが入り込むことでその家がかき回されるタイプ。もう一つは、保守的な村に入り込んだ外部者が村民にひどい目に遭わされる、というタイプ。
本作は、復興に懸命になっている保守的な小さな島に、若い元服役囚がやって来たことで混乱する。最初のタイプの家を島に変えるか、二番目のタイプの苦しめられるのを訪問された人々に変えれば、この映画の内容になる。尤も、外部の人間も相応の目に遭うのだが。いずれにしても、この二つのタイプを組み合わせたようなお話だ。
黒いちじくで島興しをしている(愛知県の)過疎の島に、保護司が元服役囚を農園に就職させるべく連れて来る。が、黒いちじくを栽培している藤原竜也に会う前に若者は保護司を殺して、町を彷徨し、彼の娘に関心を示す。娘が消えたのを心配する藤原がいちじくのハウスに入ると、見知らぬ若者がいて、もめた際に過失致死をさせてしまう。
殆ど正当防衛による過失致死であるから自首すれば無罪か、有罪でもそれほど重い罪にはならないはずだが、先日の「由宇子の天秤」が参考になるように、無罪であってもイメージダウンは避けられない。人間の偏見とはそれほど恐ろしいものなのだ。外部に対して保守的な島であるが故に却って島民の彼を見る目は大して変わらないにしても、外部の島に対する意識が大きく変わる。それを知っているので、親友の松山ケンイチや後輩の島出身の巡査・神木隆之介はその出頭を認めない。後に事情を知る一部島民が協力するのもその為だ。
ところが、保護司と元服役囚が行方不明になった結果本土から県警の刑事・永瀬正敏と伊藤歩が捜査で島にやって来た為に、静かに収めることができたかもしれない過失致死事件が、大騒動になって行く。それに輪をかけるのが強欲な町長・余貴美子で、三人で事後を相談している時に訪れて良からぬ案を提示したことに腹を果てた松山が町長を殺す。その時に口を挟んで来た老人・柄本明が町長のスタンガンのショックにより死ぬ。
この辺りは、多分に余貴美子や柄本明によるキャラクター造形が大袈裟である為にブラック・コメディーの様相を呈し、個人的には余り感心できない仕儀と相成る。
刑事二人が色々と嗅ぎ回っている間、幼馴染三人は色々と画策するが、その中で職業柄直球的に絡めない神木巡査が自分の犯行と嘘をついて拳銃自殺をしてしまう。しかし、これには裏があると、鋭い勘を発揮する永瀬刑事に追い詰められ、その折も折、藤原が犯人であるという情報が、行方不明になっていた町長のスマホから町民に流されてくる。どういうことか? それは十余年前から始まる藤原の妻・黒木華を含めた三人の幼馴染の関係性が絡んでいるということが判って来る。
町長殺しは松山の犯行であるが、藤原がそれを打ち明けないのは、彼が幼馴染の積年の思いに真摯に向き合わなかった自責の念が惹き起こす心理なのかもしれない。明確ではないが、映画はこの辺りに一応踏み込んでいる。本編において松山のその後は大した意味がなく、藤原の到達したその思いが全てなのであろう。
監督は廣木隆一で、ロングショットやズームもしくはトラックバックになかなか良い味を出している。
最初の事件で自首すべきだったと仰る人は、人の偏見に対する考えが甘いような気がする。
2022年日本映画 監督・廣木隆一
ネタバレあり
筒井哲也なる漫画家によるコミックを映画化した本作は、従来の二つのサスペンス映画のタイプを合わせたようなところがあり、そこがなかなか面白い。型通りという世評に僕は与しない。少なくとも、骨格の部分は一見型通りで、実は型通りではないのである。
そのタイプの一つとは、ある家に異分子たる一人もしく一つのグループが入り込むことでその家がかき回されるタイプ。もう一つは、保守的な村に入り込んだ外部者が村民にひどい目に遭わされる、というタイプ。
本作は、復興に懸命になっている保守的な小さな島に、若い元服役囚がやって来たことで混乱する。最初のタイプの家を島に変えるか、二番目のタイプの苦しめられるのを訪問された人々に変えれば、この映画の内容になる。尤も、外部の人間も相応の目に遭うのだが。いずれにしても、この二つのタイプを組み合わせたようなお話だ。
黒いちじくで島興しをしている(愛知県の)過疎の島に、保護司が元服役囚を農園に就職させるべく連れて来る。が、黒いちじくを栽培している藤原竜也に会う前に若者は保護司を殺して、町を彷徨し、彼の娘に関心を示す。娘が消えたのを心配する藤原がいちじくのハウスに入ると、見知らぬ若者がいて、もめた際に過失致死をさせてしまう。
殆ど正当防衛による過失致死であるから自首すれば無罪か、有罪でもそれほど重い罪にはならないはずだが、先日の「由宇子の天秤」が参考になるように、無罪であってもイメージダウンは避けられない。人間の偏見とはそれほど恐ろしいものなのだ。外部に対して保守的な島であるが故に却って島民の彼を見る目は大して変わらないにしても、外部の島に対する意識が大きく変わる。それを知っているので、親友の松山ケンイチや後輩の島出身の巡査・神木隆之介はその出頭を認めない。後に事情を知る一部島民が協力するのもその為だ。
ところが、保護司と元服役囚が行方不明になった結果本土から県警の刑事・永瀬正敏と伊藤歩が捜査で島にやって来た為に、静かに収めることができたかもしれない過失致死事件が、大騒動になって行く。それに輪をかけるのが強欲な町長・余貴美子で、三人で事後を相談している時に訪れて良からぬ案を提示したことに腹を果てた松山が町長を殺す。その時に口を挟んで来た老人・柄本明が町長のスタンガンのショックにより死ぬ。
この辺りは、多分に余貴美子や柄本明によるキャラクター造形が大袈裟である為にブラック・コメディーの様相を呈し、個人的には余り感心できない仕儀と相成る。
刑事二人が色々と嗅ぎ回っている間、幼馴染三人は色々と画策するが、その中で職業柄直球的に絡めない神木巡査が自分の犯行と嘘をついて拳銃自殺をしてしまう。しかし、これには裏があると、鋭い勘を発揮する永瀬刑事に追い詰められ、その折も折、藤原が犯人であるという情報が、行方不明になっていた町長のスマホから町民に流されてくる。どういうことか? それは十余年前から始まる藤原の妻・黒木華を含めた三人の幼馴染の関係性が絡んでいるということが判って来る。
町長殺しは松山の犯行であるが、藤原がそれを打ち明けないのは、彼が幼馴染の積年の思いに真摯に向き合わなかった自責の念が惹き起こす心理なのかもしれない。明確ではないが、映画はこの辺りに一応踏み込んでいる。本編において松山のその後は大した意味がなく、藤原の到達したその思いが全てなのであろう。
監督は廣木隆一で、ロングショットやズームもしくはトラックバックになかなか良い味を出している。
最初の事件で自首すべきだったと仰る人は、人の偏見に対する考えが甘いような気がする。
この記事へのコメント