映画評「牙狼之介」

☆☆★(5点/10点満点中)
1966年日本映画 監督・五社英雄
ネタバレあり

1ヶ月ぶりの五社英雄シリーズ復活。
 まだまだ短尺時代で、74分という小品時代劇である。何故か知らないが、60年代末以降彼の映画は長くなる。80年代に作った一連の宮尾登美子原作のドラマも大体140分近辺だった。内容が粘着的になるに応じて長くなったのではあるまいが。

宿場の問屋場の女主人お千世(=ちよ=宮園純子)が、問屋場の利権を全て手中に収めようと画策する不良役人の仁左衛門(遠藤辰雄)に追い詰められる。この急場を素浪人牙狼之介(夏八木勲)が助ける羽目になる。
 狼之介に対すべく、この役人の助っ人に雇われるのが、剣豪の殺し屋秋月佐内(内田良平)で、彼らは代官が勘定奉行に送る三万両を盗んで、輸送を担うお千世を追い詰める腹である。
 が、佐内を狙う者が色々いる一方、彼は今は狼之介に傾くお千世の夫である為なかなか狼之介と佐内の一騎打ちにならない。
 かくして狼之介が見守る中、三万両の輸送が始まり、案の定、仁左衛門の一味が襲撃してくる。これを狙う女盗賊お竜(冨永美沙子)の一派も絡むうちに、箱に収められたのがただの石ころと判明する。お千世は本物の輸送を別に仕込んでいたのである。
 この後様々な出入りの後、遂に狼之介と佐内の決闘となる。

凡そこんなお話で、短い尺の割には女性陣が4人も絡む、なかなか複雑な内容。

基本的な設定はマカロニ・ウェスタンによくある御用金輸送強奪ものの類だが、五社先生がそれ以上に注力したのは、多分お千世をめぐるちょっとした三角関係であろう。お竜以外の女性は佐内と関連があるわけで、そのうちの二人は佐内の現在の人間性を浮き彫りにする為に配置されている感じである。
 が、五社先生が意識した感じがする桑畑または椿三十郎もどきの牙狼之介(三十郎同様、恐らくその場で思いついた偽名であろう)の性格造型が曖昧で、この部分は先生が想定したほど興味深くはならない。

しかし、時に見られる、例の如きローポジション・ローアングル、スローモーション(ハイスピード撮影)、俯瞰、ダッチ・アングルなど、この時代には面白い画面作りへの意識がよく感じられる上に、短尺だけにテンポが快調で、プログラム・ピクチャー的には結構面白く観られる。

現代劇「五匹の紳士」(1966年)同様、俯瞰で撮られる女斗美(めとみ=キャットファイト)がある。五社は女斗美が好きなことがよく解った。

夏八木勲の初主演作。

TV「水戸黄門」シリーズでお馴染みの宮園純子を映画で見るのは個人的には珍しい。しかるに、何故か彼女の代りに桜町弘子の名前がある映画サイトが多い。あるいは製作直前に配役変更でもあったか?

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