映画評「第一容疑者1 連鎖」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1991年イギリス映画 監督クリストファー・メノール
ネタバレあり
常連のモカさんからお薦めされたので、TVシリーズの一部と知っていたが、所謂連続ものではないので、WOWOWの配信で観てみた。
1時間43分で完結かと思っていたら、最後まで通すにはもう一本1時間40分のものを観る必要があると判って暫しのけぞったが、これが実に面白かった。秀作と言うべし。
刑事ドラマであるが、純粋な謎解きに近いミステリー作品でもある。但し、第一容疑者というタイトルからも想像がつくように、犯人当てが眼目ではなく、倒叙ものに準じる。
アパートで若い女性の死体が発見される。事件捜査の陣頭に立っていた警部が急死する。女性警部ヘレン・ミレンは警視ジョン・ベンフィールドに指揮を執りたいと直訴し、ベテラン警部補トム・ベルの抵抗を搔い潜って何とか陣頭に立つ。
容疑者は以前強姦未遂で逮捕されたジョン・バウだが、疎漏の多い前任者の捜査では訴追できそうもないので、彼女は最初からやり直しすることにする。すると、被害者の名前が別人のものと判明、やがてその名前の売春婦も同じような殺され方で土中から発見される。
犯人が車に乗せた後に犯行に及んでいるらしいことから、ヘレン女史はTVに出演し、再現ドラマを通して車の行方などを知る手がかりを市民に求める。被害者に声をかけた男を見たという女性に当たると、面通しで彼女が示したのは全く無関係と解り切っている男性。
というところで前編が終了する。
後編。相変わらずベルは半ば捜査の邪魔になるようなことをしている。証拠となりうる車は依然発見されない。バウが犯人であるという確信を持つ女史が、彼の出張先で起きた女性の殺人事件を探ると、今回の2件を含めて計6件の殺人が浮上するが、殺され方が似ている以外に6人の間に関連が出て来ない。
しかし、女性警官モッシー・スミスが、彼の内妻ゾーイ・ウォナメイカーが美容関係の仕事をしていて、その関連でバウが被害者を知っていたのではないかとアイデアを出す。捜査関係者がそれに違いないと膝を打って動き出す。これに慌てて行動をとり始めた夫婦を警察が追跡する。
後は推して知るべしだが、それまでは謂わば静的であったのに対し、ここからぐっと動的かつサスペンスフルになり、大衆的なファンも楽しめるようになる。
が、それまでも実は面白い。捜査の進み具合もさることながら、面白さを裏打ちするのは、彼女が男尊女卑の警察社会と闘いながら決して屈しない姿である。
年齢・地位にほぼ比例して女性蔑視度が高いが、若い者もその影響下にある。しかし、彼女がその実力に示すに従って静かに彼女の支持者は増えていく。それでも警視は彼女を外したい。
ところが、部下たちは全員彼女を支持し、捜査指揮続投の決まった彼女はベルを外して忠犬ならぬ中堅ゲイリー・ウィーランを相棒に据え、いよいよここから快進撃が始まるという図式でもある。夫君が家を出て行ってしまうという悲劇はあるが、捜査過程と男性優位社会での苦闘とが相交わって大いに楽しめる作品になった所以。
ヒロインが壁に当たり、あるいは進展を聞かされたりする時の反応を一々的確に表現するヘレン・ミレンが素晴らしい。
カメラは長回し気味で動かし過ぎて五月蠅い嫌いもあるが、容疑者と母親を捉えたカメラがどんどん遠ざかって超ロング(空撮)になるところと、被害者の関連性が判明するところのカメラがズームアウトし関係者全員がフレームインするところは相当良い。前者はアルフレッド・ヒッチコックを思い出させた。
第2編もこれくらいの長さがあるらしい。なかなか厳しいが、余裕が出来たら見てみよう。この第1編のような男尊女卑というアングルでは余り語れないだろうから、それを何によって補うか。あるいはミステリーの純度を上げて楽しませるか。
1991年イギリス映画 監督クリストファー・メノール
ネタバレあり
常連のモカさんからお薦めされたので、TVシリーズの一部と知っていたが、所謂連続ものではないので、WOWOWの配信で観てみた。
1時間43分で完結かと思っていたら、最後まで通すにはもう一本1時間40分のものを観る必要があると判って暫しのけぞったが、これが実に面白かった。秀作と言うべし。
刑事ドラマであるが、純粋な謎解きに近いミステリー作品でもある。但し、第一容疑者というタイトルからも想像がつくように、犯人当てが眼目ではなく、倒叙ものに準じる。
アパートで若い女性の死体が発見される。事件捜査の陣頭に立っていた警部が急死する。女性警部ヘレン・ミレンは警視ジョン・ベンフィールドに指揮を執りたいと直訴し、ベテラン警部補トム・ベルの抵抗を搔い潜って何とか陣頭に立つ。
容疑者は以前強姦未遂で逮捕されたジョン・バウだが、疎漏の多い前任者の捜査では訴追できそうもないので、彼女は最初からやり直しすることにする。すると、被害者の名前が別人のものと判明、やがてその名前の売春婦も同じような殺され方で土中から発見される。
犯人が車に乗せた後に犯行に及んでいるらしいことから、ヘレン女史はTVに出演し、再現ドラマを通して車の行方などを知る手がかりを市民に求める。被害者に声をかけた男を見たという女性に当たると、面通しで彼女が示したのは全く無関係と解り切っている男性。
というところで前編が終了する。
後編。相変わらずベルは半ば捜査の邪魔になるようなことをしている。証拠となりうる車は依然発見されない。バウが犯人であるという確信を持つ女史が、彼の出張先で起きた女性の殺人事件を探ると、今回の2件を含めて計6件の殺人が浮上するが、殺され方が似ている以外に6人の間に関連が出て来ない。
しかし、女性警官モッシー・スミスが、彼の内妻ゾーイ・ウォナメイカーが美容関係の仕事をしていて、その関連でバウが被害者を知っていたのではないかとアイデアを出す。捜査関係者がそれに違いないと膝を打って動き出す。これに慌てて行動をとり始めた夫婦を警察が追跡する。
後は推して知るべしだが、それまでは謂わば静的であったのに対し、ここからぐっと動的かつサスペンスフルになり、大衆的なファンも楽しめるようになる。
が、それまでも実は面白い。捜査の進み具合もさることながら、面白さを裏打ちするのは、彼女が男尊女卑の警察社会と闘いながら決して屈しない姿である。
年齢・地位にほぼ比例して女性蔑視度が高いが、若い者もその影響下にある。しかし、彼女がその実力に示すに従って静かに彼女の支持者は増えていく。それでも警視は彼女を外したい。
ところが、部下たちは全員彼女を支持し、捜査指揮続投の決まった彼女はベルを外して忠犬ならぬ中堅ゲイリー・ウィーランを相棒に据え、いよいよここから快進撃が始まるという図式でもある。夫君が家を出て行ってしまうという悲劇はあるが、捜査過程と男性優位社会での苦闘とが相交わって大いに楽しめる作品になった所以。
ヒロインが壁に当たり、あるいは進展を聞かされたりする時の反応を一々的確に表現するヘレン・ミレンが素晴らしい。
カメラは長回し気味で動かし過ぎて五月蠅い嫌いもあるが、容疑者と母親を捉えたカメラがどんどん遠ざかって超ロング(空撮)になるところと、被害者の関連性が判明するところのカメラがズームアウトし関係者全員がフレームインするところは相当良い。前者はアルフレッド・ヒッチコックを思い出させた。
第2編もこれくらいの長さがあるらしい。なかなか厳しいが、余裕が出来たら見てみよう。この第1編のような男尊女卑というアングルでは余り語れないだろうから、それを何によって補うか。あるいはミステリーの純度を上げて楽しませるか。
この記事へのコメント
早々のレビューで高評価、ホッとしました。お勧めはしたものの数年前に観たきりなので2,3日前に1と2と最終章の8を再鑑賞したところです。(当初、最終章のDVDしか見つけられなくて)
犯罪物や刑事物を好んで観る方ではないのですが、やっぱり面白いですね。
派手なアクションやカーチェイスもなくて地味なんですが引き込まれて最後まで見てしまいますね。
最近ケイトウィンスレットがアメリカの片田舎の刑事になっているドラマを観ましたが、彼女も頑張ってました。「メア オブ イーストタウン/ある殺人事件の真実」
今のところUNEXT独占かもしれませんが機会があれば是非!
>早々のレビューで高評価、ホッとしました。
本当に面白かったですよ。
映画とは少し違うテンポ感ですが、それもなれると悪くない。
>派手なアクションやカーチェイスもなくて地味
そこにドラマが生かされる余地があるわけで、いくら華々しくてもアクションだけでは却って退屈しますね。
>「メア オブ イーストタウン/ある殺人事件の真実」
>UNEXT独占
確かに、プライム・ビデオには影も形もないです。
タイトルは忘れるかもしれませんが、ケイト・ウィンスレットで憶えることは出来るでしょう。