映画評「ロバータ」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1935年アメリカ映画 監督ウィリアム・A・サイター
ネタバレあり

ちょうど一週間前記した「世紀の楽団」(1938年)の作曲家アーヴィング・バーリンほどではないが、ジェローム・カーン絡みの映画も結構多い。30年くらい前に観た「雲流るるままに」(1946年)は1945年に亡くなった直後に作られた追悼的な伝記映画だった。

フレッド・アステアとジンジャー・ロジャーズのコンビ作は全部観ていると思ったが、これが抜けていた。本作は1933年の同名舞台ミュージカルを映画化した作品で、必ずしも彼らをフィーチャーした作品でないから、他のコンビ作に比べて観る機会が少なかったようである。

秀作「ママの想い出」(1948年)の見事な母親役が印象深いアイリーン・ダンが主役。歌のイメージはなかったので、実に驚いた。戦後は完全に西部劇専門俳優になったランドルフ・スコットがこの手の喜劇に出るのも珍しく、これも面白い。

アステア率いるバンドがクラブの仕事を得てパリに赴くが、誤解が判明して経営者からキャンセルされる。
 恋人クレア・ドッドと喧嘩別れして彼らに付いて来たスコットが、ロバータというブランド服飾店を経営する叔母ヘレン・ウェストリーを訪れる。彼らの仕事を探してもらうのもその目的の一つで、たまたま元ロシア貴族を自称する女性歌手ジンジャーが文句を言っている現場に遭遇する。実はこの彼女、アステアの訳ありの知人であるアメリカ女性。
 結局バンドは彼女のツテで仕事を得るが、スコットは叔母の美人助手アイリーンに好感を覚える。直後に叔母が亡くなったので二人は共同経営を始めるが、そこへクレア嬢がやって来る。アステアは三角関係をいびってやれと、クレアに彼の嫌いな露出度の高い一点をアイリーンに勧めさせる。この服をめぐってスコットはクレアと完全に切れ、アイリーンとも上手く行かなくなる。
 アイリーンは叔母宅で召使めいた仕事をしていたロシアの亡命皇族と仲が良いらしく、ロシア店でも皇女さまと呼ばれる。スコットはこれに悄気かえるが、彼女が婚約したからではなく、本当の元皇女であると知り、めでたしめでたし。

恋愛コメディーとして結構楽しめる。ヒロインが元皇女であるのがずっと伏せられた故の面白さと言うべし。しかし、ぐっとロシア人らしいのは、アステアと一緒の時以外のジンジャーで、ロシア語風英語をずっと喋っていて、これもまた楽しい。
 つまり、アステアは周囲で賑やかす役目に過ぎないが、勿論、踊りの量はいつもと殆ど変わらず、個人の激しいタップを始め、ジンジャーとの息の合ったダンスなど見応えたっぷり。アイリーンは、今でも歌われる一番有名なカーンの名曲「煙が目にしみる」を歌う。

我々戦後世代は「煙が目にしみる」でプラターズを思い出すが、そのバージョンより25年も前の名曲だったのだ。

この記事へのコメント

モカ
2022年10月29日 14:46
こんにちは。

>「煙が目にしみる」でプラターズを思い出すが、そのバージョンより25年も前の名曲だったのだ。

 「ドナドナ」も悲しいフォークソングだと思っていましたが,実は戦前のミュージカルの中の一曲でしたね。これも作者がユダヤ系アメリカ人で1939年作なのでワルシャワゲットーを暗示しているという説もあるようです。

 こちらのアーヴィング・バーリンのレビューを読んでから古いジャズの作者が気になりだしてこのところ古いレコードをよく聴いています。
殆ど輸入盤なので日本語の解説がないので作者名もレーベルの小さい文字を探らないといけなくて大変ですけどなんだか楽しい!
 今のところの経過報告といたしましては、ユダヤ系アメリカ人が圧倒的に多いですね。
この二人よりももっと有名な?ガーシュイン、ベニーグッドマン、ハマースタイン2世… コール・ポーターは違うかな?
とにかく優秀な人が多いですね。
 

オカピー
2022年10月29日 20:40
モカさん、こんにちは。

>「ドナドナ」も悲しいフォークソングだと思っていましたが,実は戦前のミュージカルの中の一曲でしたね。

ジョーン・バエズの印象が余りに強いですよね。
中学時代、教科書か補助教材に載っていましたが、モカさんの頃はいかが?
哀愁溢れるメロディーは西欧系ではないなと思っていたところ、作者はウクライナ出身だそうですね。

>こちらのアーヴィング・バーリンのレビューを読んでから古いジャズの作者が気になりだしてこのところ古いレコードをよく聴いています。

こういうコメントを読みますと、やる気が出ますよ。
有難うございます。

>今のところの経過報告といたしましては、ユダヤ系アメリカ人が圧倒的に多いですね。

ヒトラーは、ユダヤ人に芸術的才能はない、と言っていますが、大嘘。それどころか、アメリカの優秀な映画監督にはユダヤ人が多い。現役では、スピルバーグ、ウディー・アレンなど。
モカ
2022年10月30日 13:49
こんにちは。

>中学時代、教科書か補助教材に載っていましたが、モカさんの頃はいかが?

 まさにリアルタイムで「ドナドナ」が流れていましたが教科書に載せるには時期尚早でしたかね。
その後ビートルズも教科書に載る時代が来たらしいですね。知らんけど…(笑)

 その代わりっちゃぁ何ですが、英語の先生が物の分かった方でして、英語の歌を歌う授業がありました。多分ブラザーズフォアだと思いますが「500マイル」や「花は何処へいった」なんかを皆んなで歌ってました。
先生が小さなラジカセのような物を持って教室に入ってくると嬉しかった記憶があります。

 ユダヤ人は教育熱心だから優秀な人が多いと聞いたことがあります。
教育によって身につけたものは奪われることがない財産だという事ですね。
命を奪われない限りではありますが。
 
オカピー
2022年10月30日 15:54
モカさん、こんにちは。

> まさにリアルタイムで「ドナドナ」が流れていましたが教科書に載せるには時期尚早でしたかね。

そうでしょうね。

>その後ビートルズも教科書に載る時代が来たらしいですね。知らんけど…(笑)

さすがに僕の時代もなかったですが、それから10年もしないうちに「イエスタデイ」が多分最初に載ったのだと思います。

2年前に銀行の女の子に聞いた情報では、小学生時代に「ハロー・グッドバイ」を英語学習を兼ねた音楽の授業で習ったとか。とにかく、今なら小学生でもわかるビートルズ楽曲中一番簡単な歌詞ですからね。
 「オブラディ・オブラダ」は中高? というのも、一時期高校野球の応援曲の定番でした。今でも伝統的に使っている子高校があり、奈良の天理高校がよく演奏しますよ。そんなわけで、群馬県勢と対決しない時は天理高校を応援します(笑)
 今はクイーンの「ロック・ユー」のほうが目立ちます。この曲、嫌いなんですが(笑)

>英語の先生が物の分かった方でして、英語の歌を歌う授業がありました。多分ブラザーズフォアだと思いますが「500マイル」や「花は何処へいった」なんかを皆んなで歌ってました。

うちの姉がまったく同じ事を言っていました。
それに影響を受けた姉は、ブラザーズ・フォアの「花は何処へ行ったの」(裏が「500マイル」でした)と、PPMのLPを買ってきましたね。