映画評「キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2012年アメリカ映画 監督トム・ドナヒュー
ネタバレあり

一ヶ月くらい前にコメント欄で、アメリカのキャスティング・ディレクターに触れたことがある。その存在の為に邦画に比べてアメリカ映画には変てこな配役が少ないのではないか、という主旨だった。
 そのアメリカでも、1950年代後半まではスター・システムが強く、ドル箱スターという言葉が跋扈していたように、客が飛びつく配役が全てであった。それが50年代後半から徐々に崩れ、67年のニューシネマ誕生と共にスター・システムが崩壊し、それまでは参考意見くらいを放つのが関の山だったキャスティングという業務が確立し始める。

本作の証言者の中では、クリント・イーストウッドやロバート・レッドフォードが初期にその恩恵に預かった人物であり、ダスティン・ホフマン、ジョン・ヴォイト、アル・パチーノ、ジーン・ハックマンなどがニューシネマ期に台頭した俳優である。
 その仕事を評価する監督者も、ウッディー・アレン、ピーター・ボクダノヴィッチ、マーティン・スコセッシ、ジェリー・シャッツバーグ、ジョン・シュレシンジャーなどニューシネマ期に台頭した人々が占める。

本作によれば、寧ろ最初キャスティングの仕事が重要だったのはTVで、そこで実績のできた彼女たちの推薦を認める形で映画界が追随して来たのである。
 その第一人者だったのが、本作製作の1年前に亡くなった草分けマリオン・ドハティ―で、この映画は彼女とその映画界への貢献を称える作品である。
 彼女は、立派な後継者もきちんと育て上げている。デボラ・アクィーラ、エレン・チェノウェス、リン・ストールマスター、等々。

面白いと言おうか、怪しからんという印象を抱かせるのは、全米監督協会及びその当時の会長テイラー・ハックフォード(「愛と青春の旅立ち」等)の偏見、狭量である。ディレクターと呼べるのは映画監督だけである、というのである。撮影監督も美術監督も認めたくないのが本音だと言う。
 アカデミー協会も似たようなもので、エミー賞にはある“キャスティング・ディレクター賞”がない。イーストウッド、レッドフォード、グレン・クロース、スコセッシ、アレンといった俳優・監督たちが功労賞という形でマリオン・ドハティーに賞を与えるように勧告したが、これも結局退けられたようである。
 この証言を聞き、続いて彼女の死に触れて悲しくなり、涙腺が熱くなった。映画製作に関するドキュメンタリーを見て泣くとは、夢にだに思わなかった。

頗る面白いとは言えないが、89分と要領よく作られているので、映画製作に興味がある方はどうぞ。

映画製作のドキュメンタリーで必ず出てくるのが「卒業」。映画史を語る上で欠かせない作品なのだ。

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