映画評「レインマン」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1988年アメリカ映画 監督バリー・レヴィンスン
ネタバレあり

ロードショーで観たのが最初。10年後くらいに衛星放送で再鑑賞、今回がおよそ四半世紀ぶりの3回目である。お気に入りの作品なので、もう少し早く見てしかるべしだったのだが、134分という長さが多少ネックになった。

ランボルギーニを輸入して儲けようとした青年実業家トム・クルーズが、審査等の手続きに手間取って難儀する。抗議する顧客を何とかあしらううちに、長い間断絶していた父親死去の報を受け、助手兼恋人ヴァレリア・ゴリノを連れて葬儀に出かけた後、古いビュイックだけを相続すると聞かされた時に残りの遺産を管理するのが病院長ジェリー・モーレンと知って、病院に駆けつける。
 その結果、この病院に自閉症(恐らくアスペルガー症候群)の兄ダスティン・ホフマンを発見、院長との交渉の為に強引に連れ出す。自動車販売の為にLAに急ぐ必要があるのに、兄は飛行機や高速道路が嫌いなので、仕方なく一般道路を使って帰途に着く羽目になる。が、モーテルに泊るうちに兄がアスペルガー症候群(によるサヴァン症候群)ならではのもの凄い記憶力と計算能力(その癖単純な引き算が出来ない)が誇ることを知り、その記憶力を頼りにラスヴァガスのトランプ・ゲームで大勝ちをする。ヴェガスの娼婦に声を掛けられたホフマンが二度と現れる筈もない彼女を待っているのを知り、ヴァレリアがエレヴェーターを止めて踊りキスをしてあげる。
 かくして一週間を過ごすうちクルーズは遺産のことはどうでも良くなり、兄を何とか引き止めたいと考えるようになるものの、兄の幸福を真に考えた結果、病院(施設)に返すことにする。

表現を抑制的にしたからこそ感動的になった作品と言うべし。Allcinemaにもっと感動的(つまり大袈裟)に作る方法もあっただろうに・・・という感想が載っているが、ごり押しされて生まれるような感動は本物ではあるまい。
 例えば、幕切れでは、登場人物の目立つ行動もない(例えば、ホフマンは列車に乗って携帯TVに夢中、弟のほうを見ることはない)うちに、それを見守るクルーズの表情にそこはかとなく愛情を感じさせる。自閉症の人は感情を表現することが苦手であり、人をじっと見ることにも難儀することを考えれば、弟のほうを見ない兄にも弟への感謝の気持ちが溢れていたのが想像できる。
 彼は信頼する人をアルファベットで呼ぶ癖があり、終には弟をこれで呼ぶ。これについても具体的に説明はないが、話の流れのうちに十分想像することができるのである。想像こそ感動の最大の原動力である。

アスペルガー症候群の本作主人公の特異のキャラクターが公開時に強い印象を残した。こういう人を見世物的に扱う(観客においては “楽しむ” )のはどうかという意見もあるだろうが、僕は当時この病気を全く知らなかった為に大いに興味深く見、映画全体を楽しんだ。それを頭から否定するのは些か狭量のような気がする。寧ろ、きちんと症状を伝えていると思われ、こうした疾患の存在を知らしめる貢献すらあったと言っても良いのではないか。

細かな点では、雨男(レインマン)の歌の謎が解けるところが好きだ。子供時代にこの歌を歌ったのはレイモンド(ホフマンの役名)でそれが聞き違いでレインマンとなったこと、しかも兄が弟の火傷を心配したことを判明する。弟が兄への愛情をぐっと深めたのはこの瞬間と思う。彼が歌ったのがビートルズの“アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア”だったので、個人的に非常に嬉しく感動も増幅した。

卒業」(1967年)以降一作毎に全く違う役柄を演じてきたホフマンの患者ぶりも見事。

監督のバリー・レヴィンスンは、この頃、ホームランを連発していた。村上のようだった。

この記事へのコメント

2022年11月11日 14:53
トム・クルーズの出世作ともいえますね。
淀川長治が「ダスティン・ホフマンを受けて、いい芝居するじゃない」みたいに、力み過ぎない、やりすぎないあたりがいいという褒め方でしたかね
小林信彦も「トム・クルーズは大物役者といっしょに出るとなぜかすごくいい芝居をする」みたいな褒め方で。
一人でスター主演! でも、うまいんですけど、いわゆるスターみたいなかんじではなくて、芝居の中で役をうまく見せるという芝居もできるというので感心されてるということでしょうか。
オカピー
2022年11月12日 07:48
nesskoさん、こんにちは。

小林信彦の発言は「ハスラ-2」のポール・ニューマンとの共演とも関連付けられているんでしょうね。受けの芝居が上手いスター俳優は案外少ないかもしれません。

やがて彼自身が大物になったので、受けの芝居はほぼなくなったと思います。
そうなると、一部の人からトム・クルーズの演技に対して酷評が出るようになりましたが、僕が初めて彼を観た「タップス」では若手演技派ティモシー・ハットンを喰っているとさえ言われたものですよ。