映画評「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」

☆☆(4点/10点満点中)
2021年アメリカ=日本合作映画 監督・園子温
ネタバレあり

今年夏前に芸能人の性加害への告発が相次いだ。その中に本作監督の園子温も入っていた。東京新聞の文化欄コラムニスト3人が犯罪的行為と業績・功績について連日意見を闘わせていた。一人が問題は問題として考え、業績は別個に考えようと言ったところ、二人が反論して来た。
 東京新聞上では犯罪的行為を為した者の芸術的貢献など取り上げるに及ばないという意見が勝った形だが、それはどうだろうか? こういう人は典型的なリベラルで、社会復帰した元囚人が社会で迎える逆風について声を上げるような人ではないかと想像されるが、矛盾がありはしないか? セクハラで訴えられた芸能人は抹殺されても仕方がない一方、他の犯罪者は救われなければならない、と言っているのだから。
 僕も人権にはうるさいほうで、長年自民党政権の行政には人権的に問題が多いと眉を顰めている方だが、犯罪者の人権を言うなら、芸能文化人の業績くらいは認めてやっても良いのではないかと思う。そのくらい罪は大きいということを言いたいにしても、余りに不寛容がすぎる気がする。園子温の場合、Wikipediaで読む限り悪質な感じで、個人的には相当がっかりさせられたものの、近年こそ注目に値する仕事をしていないとは言え、彼の残した映画史上の業績には評価すべきものが確かにあると思われる。

閑話休題。
 大分前から何でも出演するのをポリシーとした(?)感のあるニコラス・ケイジが主演した本作は非常に評判が悪いが、そのつもりで見るとそこまでは悪くない。

一種の無国籍・無時代映画で、侍がいて遊郭もあり、しかも白人のガバナー(知事)ビル・モーズリーが支配しているサムライタウンが舞台の一つ。知事は、強盗をやらかして服役しているケイジに時限爆破装置や女性に暴力をふるうと爆発する装置を仕掛け、町から他の女性たちと脱出した愛人ソフィア・ブーテラを取り返して来いと命じる。
 彼女がいるのは核施設の爆破で破壊されたゴーストランドなる町で、ここには日本人と中国人が大勢をしめつつ説教師はやはり白人である。懸命にソフィアを救出しようとして満身創痍になったケイジは町のヒーローとなり、やがてサムライタウンに戻って来る。
 しかし、連れて来た彼女は知事に反抗し、彼女に心酔する孫娘?中屋柚香も知事に銃を向ける。ケイジは彼の用心棒的な侍(TAK∴=坂口拓)と対決する。

サムライタウンでの乗りは時代劇とマカロニ・ウェスタンを折衷した三池崇史監督「スキヤキ・ウェスタン ジャンゴ」に近く、ゴーストランドでの模様は近未来ディストピアSFで「マッドマックス」シリーズを思い出させたりする。そうかと思うと前衛舞踊的なものも出て来て、ごった煮状態を呈する。
 「希望の国」で示した反核的な意識に、下ネタ趣味と脱力するお笑いを加えた結果、益々挨拶に困るような映画になっているが、しかし、園監督がそういうごった煮を目指してごった煮を作ったのは容易に理解できるので、最悪の映画ではない。監督が何をしようとしているのか解らない場合が最悪なのである。

悪食好きの方はどうぞ。

欧米の人権派のやることは理解を超えることがある。絵に払う金があるなら環境問題に金を使え、とガラスに覆われた名画に異物を付着させた活動家がいたが、人類誕生以来芸術や文化が果たして来た貢献を考えれば、人権や行政より価値がないなんてことはないだろう。さすがにこれに関しては新聞の文化コラムニストもけしからんと言うだろう。

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