映画評「囚われの女」(1968年)

☆☆★(5点/10点満点中)
1968年フランス映画 監督アンリ=ジョルジュ・クルーゾー
ネタバレあり

サスペンス映画の巨匠アンリ=ジョルジュ・クルーゾーの遺作。唯一のカラー作品で、日本劇場未公開。初鑑賞。
 フランスで五月革命もありカウンターカルチャーがビークに達した1968年に作られ、ヌーヴェル・ヴァーグへの対抗意識が多分にあるような見せ方をしているが、サスペンスを通して人間研究をしてきた彼の作品としては迫力を欠く感が否めず、個人的にはがっかりさせられた。

ポップアートの芸術家ベルナール・フレッソンの細君エリザベート・ウィーネルが、画商ローラン・テルジェフによって開かれた個展の後夫君が女性記者に付いて行った不在に乗じて、彼の部屋に同行してしまう。スライド映写機で一般的な写真に混ぜられた女性のSM写真を見せられた後、後日モデルのダニー・カレルを交えた撮影の現場で非常に動揺するが、次第にその淫靡な世界に埋没し、ドイツに出かけた夫を尻目にテルジェフと二人で小旅行に出たりするが、彼女と違ってテルジェフの気持ちはアヴァンチュールから程遠い。
 その実態に気づいたフレッソンは顔色を変えてテルジェフのオフィスに殴り込まんばかりに急行するが、屋上で投身自殺をしかねない様相の彼を却って救うような羽目になる。二人の狭間で行き詰った彼女は車を線路に立ち往生させ、衝突されて重傷を負う。

法律や道徳に裏打ちされない自由恋愛の果ては碌なことにならない、とクルーゾーの繰り言を聞かされるような内容で、特殊なもしくは普遍的なお話から普遍性を見せるのがドラマ映画の使命と考える僕には、この作品は失敗していると言わざるを得ない。ポップアートや自由恋愛に否定的なクルーゾーの心境は理解できても、同じ考えの人以外には訴えるものが少ない。

モノクロ時代の凄味が余り感じられないにしても、カラー設計は悪くないし、終盤のサブリミナル的なフラッシュバックの連続という、最先端と言うべき映像へのトライは買いたいが、作品全体としてはやはり貧弱と思う。

その昔アラン・ロブ=グリエの「囚われの美女」という余り出来の良くない作品を映画館で観たです。ちと紛らわしい感じ。

この記事へのコメント

2022年11月26日 09:20
クルーゾーだけに、この出来には「くるいぞう」になってしまいました…。
いままで見てきたクルーゾー作品はみんな面白かった(たぶん)のに。
男の性癖に惹かれる女、男も悩む、というだけで、なんだか弱い。
WOWOWのクルーゾー特集でかろうじて拾った1本でしたが、あとは「密告」は見ていないので、再放送を待ちます(また見逃すかも)。

オカピー
2022年11月26日 18:28
ボーさん、こんにちは。

>クルーゾーだけに、この出来には「くるいぞう」になってしまいました…。

あははは。
1950年代市川崑の作品がヒットしないのは「来んだから」、クルーゾーが当たるのは「来るぞーだから」と言われたようです(笑)

>あとは「密告」は見ていないので、再放送を待ちます(また見逃すかも)

多分まだWOWOWの配信にありますよ。
しかし、「密告」は地味すぎて、一般的な観点からは面白くないと言われそうな気がします。