映画評「余命10年」

☆☆★(5点/10点満点中)
2022年日本映画 監督・藤井道人
ネタバレあり

肺動脈性肺高血圧症という難病で38歳で夭逝した小坂流加なる女性作家の、自分の患う病気から着想した恋愛小説の映画化。
 劇中のヒロイン茉莉=マツリ=(小松菜奈)が書く小説が原作にほぼ相当すると思われ、一種のメタフィクション要件を構成している。

2011年東京。2年間の入院を経て漸く退院した茉莉が、出身地で行われた中学校の同窓会に出席し、印象の薄かった和人(坂口健太郎)と再会する。親と断絶して一人暮らしをしていた東京で失業したのを悲観して自殺を試みた彼は命に別状なく入院するが、僅か3人の東京組の同級生タケル(山田裕貴)に病院に呼ばれたことから、勢い茉莉は頼りない和人に寄り添うことになり、互いに恋愛感情に発展していく。
 和人はタケルの紹介により焼き鳥屋に就職し、彼女を精神的支柱として、健康的な若者に戻って行くが、彼女は自分の病気が不治であることを告げて、距離を置くようにする。
 2019年、再入院して書き上げた「余命10年」という小説が大学時代の親友・沙苗(奈緒)の務める出版社から出版されることになる。その頃彼は独立して焼き鳥屋を開店、沙苗はその印刷前の最終稿を店に届ける。

昔のお涙頂戴死病映画は突然死病を出して泣かせるという、人間の本能に訴えすぎて感心できない手法を取っていたが、映画界が熟したと言おうか、観客が大人になったと言おうか、日本や西洋の映画では死病を前提に作る作品が大多数となった。つまり、先が読めないのを良しとする世間の傾向に反する、志の高さが伺える作品が増えている。最後の時までをどう見せていくかで勝負しているのである。

これは大変に良いことで、本作も最初からヒロインが死病であることを告げて始まり、ヒロインの心情の変遷を中心に紆余曲折を見せている。終盤強がらずに素直になったヒロインの姿にぐっとなった。
 他方、「8年越しの花嫁」など類似作品が近年多いのも確かで、個人的には藤井道人という俊英に任せるような作品かと言えば疑問を生じる。 

心理のすれ違いがわざとすぎる難点が気になる一方、基本的には最後を除いて時系列を崩さず、しっかり作っていて全体的には好感が持てる。とは言え、終盤はもっと抑制的に作られるべきであったと思う。九仭の功を一簣に欠くというほどそれまでが素晴らしかったわけではないにしても、大分失望させられた。 

CMを見てウルウルするオカピーを泣かすに大した技術は要らない。従って、涙の量と採点は必ずしも比例しないのが僕のスタンスである。

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