映画評「先生、私の隣に座っていただけませんか?」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2021年日本映画 監督・堀江貴大
ネタバレあり

2000年代は華麗なギミックを使った映画が流行った。この映画はその時代の作品群を思い出させると同時に、類似するものはあっても同じアイデアの映画は観たことがないような気がする。

売れっ子女性漫画家・黒木華が、母親が足を痛めたということで、同じく漫画家の夫君・柄本佑と実家に仕事場を移す。
 彼女は、車がないと生活が出来ないという田舎ということで自動車教習所へ通うことになり、夫君が送迎するが、その狭間に彼女の新作のネーム(映画の絵コンテに近い)を盗み見てしまう。
 これが、編集者・奈緒との彼の不倫を匂わせるものなので動揺、さらに問題なのが彼女が教習所の若い教官・金子大地への接近を匂わせていることである。自分のことがほぼ実話であるから、彼女のことも実話であろうという憶測をするのである。
 しかも、免許証を得た彼女は彼の車を借りて二日間も家を空け、三日目の朝突然ファックスでネームが送られてくる。それによれば、教官を連れて家に戻り今後を話し合いたいというのだ。彼女の失踪を心配して泊っていた奈緒を含めた関係者5人が全員集うことになる。
 青年教官はそんな事実はないと断言し、黒木女史は仕事をすると言って二階へ行く。夫君は彼女と話し合いをしようとその後を追う。

映画としてはこのシークエンスが実に面白い。暖色場面と寒色場面が交互に連続的に進行し、そのどちらかがコミック内の世界でそのどちらかが現実である。最初は暖色場面が現実かと思ったが、最終的に彼に絵を描いてもらうことにする寒色場面が現実と判明する。
 この映画はそれ以前も観客を虚実の間でふらふらさせる面白味がある。実写がコミック内であることも多く、コミックを入れ子にしたことが楽しめる作品になった最大の要因と言うべし。

これだけなら小傑作止まりだったところ、その後の夫婦愛を見せられて傑作に跳ね上がったが、最後のどんでん返しで印象がかなり変わるのである。それによると、コミックで書かれたことは全て真実ないし彼女の意志の表白であると判明、暖色だの寒色だのと色々考えていた観客、少なくとも僕は脚本も書いた堀江貴大監督にすっかり騙されたという次第。
 基本的にオーソドックスな話が好きな僕にはどんでん返しがないまま終わった方が好もしいが、それでも小傑作と言いたくなる。

アルフレッド・ヒッチコックを意識しているようなところもあり、特に夫君が細君の乗る車を追うシークエンスは「めまい」を想起させる。

本作を全体的に分析すると、不倫をしかつそれを認めなかった夫君に対するヒロインの復讐劇であるわけであり、実は真実しか描かれていなかったことになる一方で、このお話は全てコミック内の世界と考えられないこともない、と理解できる面白味を内包している。

二日続けて奈緒が編集者役として登場、昨日は作家の姉だった黒木華が今度はコミック作家として出てくるのが面白い。

ホリエモンはいつ映画監督になったんだ、と思ったら一字違い。

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