映画評「フォーリング 50年間の想い出」

☆☆★(5点/10点満点中)
2020年イギリス=アメリカ=カナダ合作映画 監督ヴィゴ・モーテンセン
ネタバレあり

ヴィゴ・モーテンセンの初メガフォン作で、脚本・音楽・主演も兼ねている。

およそ50歳のパイロットのモーテンセンは、ロサンゼルスで男性パートナーのテリー・チャン、メキシコ系の養女ギャビー・ヴェイルスと暮らしている。が、山岳地帯に一人で暮らす老父ランス・ヘンリクセンが認知症を発症した為に引き取ることにする。
 老父は若くして子供二人を連れて出て行った最初の妻ハンナ・グロスや、彼女が交通事故で死んだ後後妻になったブラッケン・バーンズを、既に故人であるのも認識せずにあるいは両者を混同して罵倒、正常な時は頻繁に同性愛者の息子を愚弄する。若い時(スヴェリル・グドナソン)から人に優しい言葉など掛けることのできない頑固一徹の保守人間で、老いて益々悪態の付き放題となっている。
 やがて、認知症ということを考慮してずっと堪えて来た主人公も遂に堪忍袋の緒を切るが、その憎悪を思い切り発散した結果、初めて父親と肉親の情を通わせ合うことになる。

一言で言えば老人はずっと孤独だったのだ。多分それを最初から理解していたのは孫にあたる養女だけだったのかもしれない。

過去の場面が随時インサートされて進行、意識混濁する老人のフラッシュバックも時に見られる。
 深い対立の内容を考えると全体的に抑制された語り口に好感が持てるが、時系列が一つでなく、現在の場面では地理的な移動も少なからずあるので、時に一人合点というより舌足らずの印象を受ける。移動に際してはもう少し環境ショットがあっても良かったのではないか。
 前妻が交通事故に遭った時に車で出かけるウィリス(ヘンリクセン、グドナソンの役名)に手を振る黒髪の女性が誰かということも気になる。ブラッケンの前の恋人? 

当初主人公が同性愛者というのは今時の映画だなあと苦笑が洩れたが、保守的な父親との対立という主題を考えた時にこの設定は非常に重要であるので必然として、相手が東洋系であるのはポリ・コレ的配慮だろうか。

やがてバランスが取られていくだろうが、多様性の名の下に多様な映画作りが認められないのは大いなる矛盾だ(日本はこの点においてはマシな方である)。一部の作家が白人役に何の説明もなく有色人種を起用するのは全く良くない。舞台と違って映画は現実的に捉える人が多い為、誤解を生むのだ。パット・ブキャナンが、ポリティカル・コレクトネスのトレードマークは不寛容、と言ったのが頷けることが多い。

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