映画評「ナワリヌイ」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2022年アメリカ映画 監督ダニエル・ロハー
ネタバレあり

ロシアのウクライナ侵攻以前、反体制派政治家アレクセイ・ナヴァルヌィ(ナワリヌイ)が毒殺されかかり、ドイツでの治療・快癒後にロシアに戻って逮捕・収監されているのがロシア関連のニュースでは大きな話題を呼んでいた。
 侵攻後は戦争という大きなトピックの為に隠れてしまったが、今でも彼はSNSで戦争非難をしている。表現の自由が大きく制限されているロシアにおいて刑務所で政治犯がSNSが利用できる自由があるのは救いと言うべし。

ナヴァルヌィ以前から国内外で政権に不都合なロシア人が相次いで不審な死に方をしてい、その全てをロシア国外と一部国内ジャーナリズムは国家権力による謀殺と事実上断定して来たわけで、ロシアの悪と下手な嘘の付き放題が今回の侵攻により確かなものになった。

本作は、彼の毒殺未遂後収監されるまでに撮られたアメリカ製ドキュメンタリーで、中国やロシアでは正に映画のようなことが起こると実感させられる内容である。

暗殺(未遂)自体が言うまでもなく非常にシネマティックだが、ハイライトと言うべきは、彼のチームに所属するクリスト・グロゼフという人物が電話使用の経歴から犯人数名を特定し、政府関係者を名乗って彼らに一人一人電話をかけ、遂にその一人から犯行を聞き出すシークエンスである。
 他のメンバーと違い彼は科学者でその辺の用心が欠如していたようで、その後行方不明となっているらしい。かの国ではソ連のスターリン時代ほどでないにしてもこういうことが今でも日常的に起こっているのであろう。ともかく、まるでスパイ・サスペンスを観るような数分間であった。

我々自由主義国の人間には、ナヴァルヌィのような人間が勝つ日が早く来ることを祈願するしかないが、戦争の失敗でプーチンが仮に退場したとしても、ロシアは大きく変わらないだろうというのがロシア通の共通する意見のようである。

ユリア夫人と娘ダーシャが登場する時、画面上の英語の紹介で Navalny になっていたのが、ロシア語を勉強した人間には気になった。ロシアでは女性は本来苗字も女性形すなわち Navalnaya になるからである。IMDb では規則通りそうなっている。ニキータ・ミハルコフの娘が日本の一部サイト等でナージャ・ミハルコフとして紹介されているが、実際にはナージャ・ミハルコヴァという。これも一種のポリ・コレ的もしくはフェミニズム的アクションなのだろうか?

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