映画評「ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2021年日本映画 監督・飯塚健
ネタバレあり
映画としての完成度はそう高くないが、特にある世代以上の日本人であれば感銘を覚えざるを得ない作品である。
オリンピック・マニアの僕は、長野オリンピックを見る為に当社のドイツ代理店一行が来社(一度来れば一週間ほど滞在する)していたにも拘らず、上司に頭を下げて二日ほど有休を取った。近くの県(当時は埼玉県在住)ながら会場までは行かず、家でのTV観戦だった。
この作品が扱うジャンプ団体(当時は女子がなかったので男子ジャンプ団体とは言わない)は、リレハンメルで無念を味わった僕が最も楽しみにしていた競技で、火曜日であったので上述通り有休を取り、見た。
本作でも描かれるように悪天候で本当に心配した挙句の金メダルだった。翌日出社した僕は、2位になったのをニュースで知っている筈のドイツの方々に“残念でしたね”と告げたのだった。
しかし、その悪天候の裏でこんなドラマが巻き起こっていたとは、僕は知らなかったなあ。但し、悪天候の時はテストジャンパーが活躍し、良い天候でも開始前にテストジャンプが必ず行われるのは知っている。
また、事前に裏方のテストジャンパーの話とは知っていたが、まさかリレハンメルで団体戦で一番良い成績を出した西方仁也が裏方に回っていたとは知らなかった。
本作の骨格は、一時は日本のトップ選手であった西方(田中圭)の、当日ある時点まで裏方に徹することができなかった内面を描くことである。テストジャンパー全体を主人公と考えるなら彼はやや悪役に近いポジションにある。しかし、ここに登場する後輩たちは彼の心境をしっかり理解している。
同時に彼もまた、風が吹いている状態では恐怖で飛べなくなっていた若いトップ選手・南川(眞栄田郷敦)、難聴の高橋(山田裕貴)、女子ジャンプ競技がない時代に苦闘する女子選手・小林(小坂菜緒)を指導しながら、彼らの精神に学ぶところ多く、また、リレハンメルで金メダルを獲れなかったことの全責任を負わされた原田雅彦(浜津隆之)の責任感に気付かされ、漸く高い目的意識を持って最後のテストジャンパーとして飛ぶことができるのである。
日本のジャンプ好きの方なら原田の気持ちは解っているから、その部分だけでも十分感動できるのだが、一回目のジャンプが終わった段階での試合中断(その場合は1回だけで順位が決まる。吹雪の中での原田の失速の為に日本はこの時点で4位に落ちていた)が予想される中、テストジャンパーが一人でもこけたら二回目はないだろうと関係者は踏んでいた。それだけに彼ら全員がきちんと立ったことで、日本の金メダル獲得があったことを考えれば、テストジャンパー全員にも金メダルの価値があると思う(厳密には、裏方は日本の為だけに働いているわけではなく、そこを些か強調しすぎではあるが、彼らがこの映画通りの心境であったとしても無理はない)。
3歳の息子が手作りの金メダルを父親に与えるが、僕は原田も心の中で西方に金メダルを与えたと推測する。彼がテストジャンプする前、二人は初めて一心同体となったような気さえし、僕はいたく感動したのである。
しかし、そこに多少関わり合うテストジャンプ責任者・神崎コーチ(古田新太)と西方のやり取りは長すぎる。映画の中では時に実際時間と異なる映画時間というものがあるとは思うが、さすがにもっと簡潔に扱わないと、折角湧き上がってきた感銘が却って殺がれかねない。感銘を呼ぶべき処理が感銘を殺いではいけない。
とは言え、僕のよく知る実話という好条件のおかげもあって、甘すぎる傾向のある田中圭と土屋太鳳主演の映画としては良い感触をもって見終えることができたのである。
今朝、寒いので布団にもぐってサッカーW杯を見た。PK戦の末の敗退。今回もベスト8に進めなかった。惜しいと言えば惜しい。次は来年の三月WBCで野球陣に頑張って貰おう。
2021年日本映画 監督・飯塚健
ネタバレあり
映画としての完成度はそう高くないが、特にある世代以上の日本人であれば感銘を覚えざるを得ない作品である。
オリンピック・マニアの僕は、長野オリンピックを見る為に当社のドイツ代理店一行が来社(一度来れば一週間ほど滞在する)していたにも拘らず、上司に頭を下げて二日ほど有休を取った。近くの県(当時は埼玉県在住)ながら会場までは行かず、家でのTV観戦だった。
この作品が扱うジャンプ団体(当時は女子がなかったので男子ジャンプ団体とは言わない)は、リレハンメルで無念を味わった僕が最も楽しみにしていた競技で、火曜日であったので上述通り有休を取り、見た。
本作でも描かれるように悪天候で本当に心配した挙句の金メダルだった。翌日出社した僕は、2位になったのをニュースで知っている筈のドイツの方々に“残念でしたね”と告げたのだった。
しかし、その悪天候の裏でこんなドラマが巻き起こっていたとは、僕は知らなかったなあ。但し、悪天候の時はテストジャンパーが活躍し、良い天候でも開始前にテストジャンプが必ず行われるのは知っている。
また、事前に裏方のテストジャンパーの話とは知っていたが、まさかリレハンメルで団体戦で一番良い成績を出した西方仁也が裏方に回っていたとは知らなかった。
本作の骨格は、一時は日本のトップ選手であった西方(田中圭)の、当日ある時点まで裏方に徹することができなかった内面を描くことである。テストジャンパー全体を主人公と考えるなら彼はやや悪役に近いポジションにある。しかし、ここに登場する後輩たちは彼の心境をしっかり理解している。
同時に彼もまた、風が吹いている状態では恐怖で飛べなくなっていた若いトップ選手・南川(眞栄田郷敦)、難聴の高橋(山田裕貴)、女子ジャンプ競技がない時代に苦闘する女子選手・小林(小坂菜緒)を指導しながら、彼らの精神に学ぶところ多く、また、リレハンメルで金メダルを獲れなかったことの全責任を負わされた原田雅彦(浜津隆之)の責任感に気付かされ、漸く高い目的意識を持って最後のテストジャンパーとして飛ぶことができるのである。
日本のジャンプ好きの方なら原田の気持ちは解っているから、その部分だけでも十分感動できるのだが、一回目のジャンプが終わった段階での試合中断(その場合は1回だけで順位が決まる。吹雪の中での原田の失速の為に日本はこの時点で4位に落ちていた)が予想される中、テストジャンパーが一人でもこけたら二回目はないだろうと関係者は踏んでいた。それだけに彼ら全員がきちんと立ったことで、日本の金メダル獲得があったことを考えれば、テストジャンパー全員にも金メダルの価値があると思う(厳密には、裏方は日本の為だけに働いているわけではなく、そこを些か強調しすぎではあるが、彼らがこの映画通りの心境であったとしても無理はない)。
3歳の息子が手作りの金メダルを父親に与えるが、僕は原田も心の中で西方に金メダルを与えたと推測する。彼がテストジャンプする前、二人は初めて一心同体となったような気さえし、僕はいたく感動したのである。
しかし、そこに多少関わり合うテストジャンプ責任者・神崎コーチ(古田新太)と西方のやり取りは長すぎる。映画の中では時に実際時間と異なる映画時間というものがあるとは思うが、さすがにもっと簡潔に扱わないと、折角湧き上がってきた感銘が却って殺がれかねない。感銘を呼ぶべき処理が感銘を殺いではいけない。
とは言え、僕のよく知る実話という好条件のおかげもあって、甘すぎる傾向のある田中圭と土屋太鳳主演の映画としては良い感触をもって見終えることができたのである。
今朝、寒いので布団にもぐってサッカーW杯を見た。PK戦の末の敗退。今回もベスト8に進めなかった。惜しいと言えば惜しい。次は来年の三月WBCで野球陣に頑張って貰おう。
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