映画評「失われた殺人の記憶」

☆☆★(5点/10点満点中)
2019年韓国映画 監督キム・ハラ
重要なネタバレあり

10年くらい前からWOWOWは一年を通して大量に韓国映画を放映している。
 僕は、韓国大衆映画の笑いとシリアス(若しくは悲劇性)との振幅で勝負するスタイルを、長い歴史のある演劇・映画論に照らして正しくないと思っているので、その1割も観ない。そんな僕が気まぐれを起して、そうした韓国大衆映画の欠点が出ることが少ないサスペンスであること、上映時間が97分と短いことから選んだが、何と日本劇場未公開であった。しかも出来が余り良くないのでがっかり。

リストラされて酒におぼれた結果、奥方ワン・ジヘと別居している元会社員イ・シオンが毎度の如く泥酔して帰宅、ベテラン警官アン・ネサン(佐藤浩市+吉川晃司÷2といった雰囲気)の訪問で目を覚ます。警官は、奥方が殺されたと言う。服と手の血により、泥酔すると記憶をなくすという言い訳も通じず疑われると思ったイ氏は相手を昏倒させて逃げ出す。
 これで益々容疑者とされる可能性が高まる中、唯一の親友を訪れ前夜のことをあれこれと聞き出し、スマホなどに頼って右往左往するうちに、闇金業者とのトラブルが浮かび上がる。
 警察は防犯カメラの分析からイ氏も、奥方をクラブで働かせるように仕向けた闇金の女経営者ソ・ジヨンも怪しいと踏む。極めてテキトーなアン警官は後輩の発言から同夜クラブを訪れた不良高校生3人組を容疑者に加えて呼び出し、犯人と確定する。

というお話で、プロローグの殺人場面では犯人は一人なので、三人のうちの一人なのかもしれないが、映画は説明しない。
 それまでイ氏が懸命に記憶を辿ろうとしていたのに、事件を根本的に解決するのが極めてテキトーだったアン警官というのもドラマツルギー的にしっくりしない。イ氏の懸命の努力が大して意味しないことになるし、テキトーで保身的な警官が突然名探偵に変身するので苦笑が洩れる。

幕切れはさらに良くない。克己心が弱く破滅型のイ氏が妻の死に責任を感じた筈なのに、14週間後にまた賭け事にのめり込んでいるところでジ・エンド。
 主人公の性格が悪くても、最後がすっきりしなくても、それ自体は映画評価においてマイナスにするには及ばない。問題なのは、映画が人間の弱さなるものを主題にしようという明確な方針を見せて来なかったのに、突然純然たる人間劇のように人間の弱さと愚かさを普遍的に見せようとして終わり、方向性に一貫性が取れていないということだ。
 しかも、中盤に頻出する、警官同士の妙なやり取りのコミカルさが、益々作品の性格を曖昧にする。

邦題は内容を考えると変だが、命名者に韓国ミステリーの秀作「殺人の追憶」の記憶があったか?

この記事へのコメント

モカ
2022年12月12日 09:53
おはようございます。

>命名者に韓国ミステリーの秀作「殺人の追憶」の記憶があったか?

ガルシア=マルケス原作の「予告された殺人の記録」というのもありましたね。
映画はルパートエヴェレットとアランドロンの息子さんが出ていました。
顔の濃さを競い合うような美男のお二人が印象に残っていますが、はてどちらが殺す方でどちらが殺される方だったのか…多分エヴェレットが殺す男だったかな?
オカピー
2022年12月12日 20:53
モカさん、こんにちは。

>ガルシア=マルケス原作の「予告された殺人の記録」というのもありましたね

映画は大昔に観ただけで題名と監督以外は全く忘れました。

これは原作の方が面白いかもしれません、知らんけど(笑)