映画評「アンビュランス」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2022年アメリカ=日本合作映画 監督マイケル・ベイ
ネタバレあり

詳細は後述するが、着想的に買えるところはあるものの、マイケル・ベイの弱点も出ているので、それほど高く評価できない。

LA。アフガン帰還兵の黒人ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世が、保険会社に断られた細君の癌手術費用捻出の為、養親の息子で名うての銀行強盗犯たる兄ジェイク・ギレンホールを訪れる。ところが、兄は金を貸す代わりに、次の銀行強盗の運転手役に彼を強引に引っ張り込む。二人は、仲間が次々と倒される中、はずみで警官を銃撃、警官を殺すと罪が重くなるのを知っている兄は助けにやって来た救急車を強奪、美人救命士エイサ・ゴンサレスを乗せたまま、アブドゥル=マティーンを運転手に逃走を開始する。
 以降、LA警察が追い、FBIも加わり、車だけでなくヘリコプターを駆使した追跡劇が大々的に展開する。

スピード」(1994年)と違って止まると爆発するなどという特別の仕掛けはないものの、逃走犯の心情として一定の理解ができる設定の下、帰還兵の特技を生かしたことになっているカー・アクションが楽しめる。官憲側も負傷警官と救命士の存在の為に無謀な攻撃はできず、ひたすら追い詰めようと頭をひねる。
 ここに一種の戦略的な市街戦が繰り広げられるわけで、終盤の激しい戦い様を見れば、作者たちがLAを戦場にする映画を作ろうとした狙いが見えて来る。

帰還兵の特技と言えば、逃走中の車の中でスマホにより外科医の指示に従って、救命士を支援する形でアブドゥル=マティーンが活躍する。戦場での経験がここでも生きるわけで、お話として面白くなった所以の一つでもあり、帰還兵賞賛映画としての側面がこの辺りから明確に出て来るとも言えようか。

作者側の狙いを色々と考えるのが楽しい反面、追跡劇の後半は長すぎて次第にもたついてくる。車が病院に着いて止まった後のサスペンスも異様に長く、サスペンスが持続できない。エイサをもっと早めに出動させるなどして迅速に処理すべきであったと思う。
 帰還兵賞賛という心情的なものが加わって、カーチェースの終盤からの展開はずっとスローである。この辺りはペイの弱点が出ていると思う次第。日本の大作メジャー映画に似ている。

カメラの上昇・下降を頻繁に駆動力全開に使った画面は見どころが多い一方、今はドローンもコンピューターがあるから「おッ」と思うことが少ない。それでもここらあたりは楽しめるが、強盗後犯人たちが混乱する場面などでカットを切り替え過ぎる。これは良くない。ベイは僕の嫌いな細切れカットの監督ではないものの、細切れでないにしても短く要領を得ないカット割りになって映画的に興醒めるのである。

今の画面は凄いけど凄くない。その調子で古い映画を観て貰っても困る、とポールド・ファンは心配する。

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