映画評「月はどっちに出ている」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
1993年日本映画 監督・崔洋一
ネタバレあり
崔洋一死す。WOWOWが追悼として流したが、WOWOWが初期にJ・MOVIE・WARSという企画で取り上げた監督であり、縁がある。
最近は余り映画を撮っていなかったが、本作と同じく梁石日の自伝的小説を原作とする「血と骨」(2004年)までは順調に色々とものして、楽しめた監督である。
逝去の報道を受けた東京新聞のコラムだったか、原作者の梁は余りのコメディー化にこの映画化を面白く思わなかったと書かれていた。確かに、製作順とは逆に物語の時系列としては「血と骨」の息子の後年を描いているのに、同作とは全然違うトーンである。僕は1994年に見ている。
経営が火の車のタクシー会社に勤める在日朝鮮人の姜忠男(岸谷五朗)は、母親(絵沢萌子)の経営するフィリピン・バーのチーママに指名された日本語の達者なフィリピン女性コニ―(ルビー・モレノ)にぞっこん惚れ込み、母親の反対にも拘らず所帯を持とうとする。同時に、自己主張の強い二人は喧嘩も絶えずついたり離れたりした末に、母親との関係もあって彼女は遂に別のフィリピン・バーに転籍し、彼との関係も切る。
が、タクシー会社が破綻した末に謎の火事で最期を迎えた後、別のタクシー会社に勤め始めた忠男は、他人の振りをしてその店に脅迫電話をかけて彼女が追い出されるように仕向け、出迎える。
「血と骨」のように骨太に荒々しくその強い存在感を基調に在日朝鮮韓国人を捉えるという手法もあるだろうし、実際にその手法を取る作品のほうが多いが、本作の、極端に戯画化し、したたかに生きているとは言えマイノリティーである在日朝鮮人の問題をすかして見せるという手法はそれ以上に効果的だったのかもしれない。
映画サイトにあった “観なくても良かった” という人はマジョリティーの日本人として、彼らの立場を理解していないのだと思う。
主人公が、朝鮮人は嫌いだがお前は好きだと言っては卑屈に金をねだる日本人運転手や、在日朝鮮人に好意的なのか否か曖昧にしつつその裏に優越意識を持ってタクシー代を踏み倒そうとする日本人サラリーマン(萩原聖人)に対して、同民族にはヤクザであっても向っていくこともあるのに、激しく敵対心を見せることがないのは、自分の立場を理解した上でのしたたかさでもあろうと想像する。在日朝鮮韓国人の処世術と言うべし。
在日朝鮮人の経営するタクシー会社内の群像劇ぶりは昔の長屋もの時代劇に通ずるごった煮感があり、その上でフィリピン女性やイラン人も交えて、外国出身の人々が劇的に増えて来た1990年頃の日本の社会風俗をよく捉えているように思う。
合掌。
兄が暫く乗らずにいたスカイラインを無理やり買いたたいて引き取ったのは、インド人だった。彼の強引な手法に日本人にないものを感じたが、それ以上にこの車の存在の為に僕は色々と迷惑を被ったわけで、思い出しても腹が立つ。
1993年日本映画 監督・崔洋一
ネタバレあり
崔洋一死す。WOWOWが追悼として流したが、WOWOWが初期にJ・MOVIE・WARSという企画で取り上げた監督であり、縁がある。
最近は余り映画を撮っていなかったが、本作と同じく梁石日の自伝的小説を原作とする「血と骨」(2004年)までは順調に色々とものして、楽しめた監督である。
逝去の報道を受けた東京新聞のコラムだったか、原作者の梁は余りのコメディー化にこの映画化を面白く思わなかったと書かれていた。確かに、製作順とは逆に物語の時系列としては「血と骨」の息子の後年を描いているのに、同作とは全然違うトーンである。僕は1994年に見ている。
経営が火の車のタクシー会社に勤める在日朝鮮人の姜忠男(岸谷五朗)は、母親(絵沢萌子)の経営するフィリピン・バーのチーママに指名された日本語の達者なフィリピン女性コニ―(ルビー・モレノ)にぞっこん惚れ込み、母親の反対にも拘らず所帯を持とうとする。同時に、自己主張の強い二人は喧嘩も絶えずついたり離れたりした末に、母親との関係もあって彼女は遂に別のフィリピン・バーに転籍し、彼との関係も切る。
が、タクシー会社が破綻した末に謎の火事で最期を迎えた後、別のタクシー会社に勤め始めた忠男は、他人の振りをしてその店に脅迫電話をかけて彼女が追い出されるように仕向け、出迎える。
「血と骨」のように骨太に荒々しくその強い存在感を基調に在日朝鮮韓国人を捉えるという手法もあるだろうし、実際にその手法を取る作品のほうが多いが、本作の、極端に戯画化し、したたかに生きているとは言えマイノリティーである在日朝鮮人の問題をすかして見せるという手法はそれ以上に効果的だったのかもしれない。
映画サイトにあった “観なくても良かった” という人はマジョリティーの日本人として、彼らの立場を理解していないのだと思う。
主人公が、朝鮮人は嫌いだがお前は好きだと言っては卑屈に金をねだる日本人運転手や、在日朝鮮人に好意的なのか否か曖昧にしつつその裏に優越意識を持ってタクシー代を踏み倒そうとする日本人サラリーマン(萩原聖人)に対して、同民族にはヤクザであっても向っていくこともあるのに、激しく敵対心を見せることがないのは、自分の立場を理解した上でのしたたかさでもあろうと想像する。在日朝鮮韓国人の処世術と言うべし。
在日朝鮮人の経営するタクシー会社内の群像劇ぶりは昔の長屋もの時代劇に通ずるごった煮感があり、その上でフィリピン女性やイラン人も交えて、外国出身の人々が劇的に増えて来た1990年頃の日本の社会風俗をよく捉えているように思う。
合掌。
兄が暫く乗らずにいたスカイラインを無理やり買いたたいて引き取ったのは、インド人だった。彼の強引な手法に日本人にないものを感じたが、それ以上にこの車の存在の為に僕は色々と迷惑を被ったわけで、思い出しても腹が立つ。
この記事へのコメント
タクシー会社に対する嫌がらせ。キャッチボールをしてわざと暴投。窓ガラスを割る。怖いと同時にちょっとユーモラスでもある。そこが崔洋一監督の演出でしょうか?
同じ事を何度も言うパンチドランカーの男も面白かったです。
>中国くらいの独裁政権になり得る可能性がありますよ。アメリカがそこに至る前に色々と介入するでしょうが。
自主性のない国日本って感じです。
>宗教団体にも課税すべきと思っています。
宗教系の高校(高校野球で甲子園の常連校)も思い出します。
>日本人は心情を直接的に表すことをよいと思わないという
「~です。」ではなく「~ですよね。」と言うのも同じでしょう。相手に同調を求める。
>”と思います”をくっつける。
二重に繰り返しです。
>人々の間で浮きたくなくて同じ表現を使う。
まあ、そこが日本人の良さかも知れません(苦笑)。
>怖いと同時にちょっとユーモラスでもある。そこが崔洋一監督の演出でしょうか?
そうですね。
在日朝鮮・韓国人コミュニティーのごった煮感がイタリア映画みたいで良いです。
>自主性のない国日本って感じです。
今回の防衛費アップも基本的にはアメリカの要求ないし見えない圧力の反映。
軍備充実による抑止力云々と言いますが、核兵器以外に抑止力は有りません。
防衛の為の反撃についてもリベラル派に一票。日本は戦争をしない国ですと言っていれば、中国も台湾有事でアメリカと一戦を構える以外のことはしないと思います。そもそも台湾有事に関し中国の軍隊はサイバー攻撃で台湾が音を上げた最後の日にしか絡まないという説もかなり有力ですしね。実際に武力でロシアよろしく台湾に進むとなると、沖縄は怖いことになる。これは確か。
連日新聞を読んでいると、日本は結構ヤバいことになっている気がしますね。中国はともかく、北朝鮮が日本にサイバー攻撃はともかく、武力攻撃しないことは解り切っているんですが。
>宗教系の高校(高校野球で甲子園の常連校)も思い出します。
もう野球部がなくなって久しい。
>まあ、そこが日本人の良さかも知れません(苦笑)
僕は空気を読むということが嫌いですが、本当に空気を読むなら必ずしも悪くないと思います。しかし、実際に現在の日本人が空気を読むのは、多くの場合自分が不利益を被らないようにするためと思われ、それが今一つ感心できない理由です。
また、日本人の協調性の高さなどが良い方に出て上品な印象を与えるのは良いですが、強い同調圧力になったりするのは良くないですね。