映画評「THE BATMAN -ザ・バットマン-」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2022年アメリカ映画 監督マット・リーヴズ
ネタバレあり

映画界においてDCコミックスの「バットマン」は、マーヴェル・コミックスの「スパイダーマン」化しつつあるようである。何故「スーパーマン」より人気なのかと考えるに、どちらも基本は生身の人間であり、隣のお兄さん的な存在であるからではないか。
 それが過度に悪い方に行くと、スーパー・ヒーローも悪党も苦悩するのだという視点から「スパイダーマン」第一シリーズのように気勢の上がらない作品になり、困った事になる。「バットマン」第2シリーズは陰々滅々な作品でありながら、悪役が悩みを超えたパワフルな存在であるなどして力のある秀作シリーズになっていた。

本作で困るのは暗いことである。いや、空気感や主人公の性格造型のことではなく、画面である。日光の差し込む部屋で観ていたら何が何やら解らないので、暗くなってからライトを点けずに観ることにした。これならばっちりだ。

お話において注目すべきは、ダーク・ファンタジーというよりは、本格ハードボイルド・ミステリーとしての結構を持っていることで、為にストーリーは少々ややこしい。

市長選を繰り広げているゴッサム・シティの現市長が殺される。警部が殺され、検事もバットマンことブルース・ウェイン(ロバート・パティンスン)の眼前で殺される。犯人はリドラー(なぞなぞ男)なるハンドルネームの男(ポール・ダノ)。
 理解者であるゴードン警部補(ジェフリー・ライト)と協力して捜査した結果リドラーが自分を最終目標としているのを知ったバットマンは、ゴッサム・シティの汚れた官憲に復讐するのを目的とする彼が何故自分をターゲットにしているのかを調べるうちに、裏社会の大物ファルコーネ(ジョン・タートゥーロ)と両親との訳あり関係が浮かび上がる。
 バットマンの代りに爆破で大怪我を負った執事アルフレッド(アンディ・サーキス)によれば、ファルコーネが諸悪の根源で両親は関係がない。さらに、リドラーが逮捕前に闇サイトで繋がっている連中と組んで、町を大混乱に陥らせる陰謀を画策していることを掴む。
 バットマンを助けたり彼に助けられたりするのがお馴染みキャットウーマンことセリーナ(ゾーイ・クラヴィッツ)で、彼女はファルコーネの庶子である。

前シリーズはバットマンにアメリカという国を投影していたように感じたが、この作品はぐっと個人的で、彼が事実上の探偵として活躍するのが面白い一方、陰湿な空気感がぐっと増している。バットマンを演ずるロバート・パティンスンの役者としての性格も大いに関係しているであろう。
 それでも「スパイダーマン」第一シリーズと違って悪い印象に陥らないのは、ファンタジーとして悪漢を倒すのではなく、私立探偵のように真相に近づいていくことに傾注している為英雄譚ならではの気勢が上がる必要性に拘るには及ばないからである。スーパー・ヒーローものの異色作として買いたい。

この出来栄えならシリーズ化されるだろうが、次もハードボイルド映画のようになれば嬉しいですな。

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