映画評「前科者」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2022年日本映画 監督・岸善幸
ネタバレあり
同名人気コミック(香川まさひと・作、月島冬二・画)をTVドキュメンタリー出身の岸善幸が映画化した。
福祉絡みの連続殺人をヒューマンな仕立てで扱うというアングルは、先日観た「護られなかった者たちへ」と似たものである。
主人公は28歳の女性保護司・阿川佳代(有村架純)で、幾人か出て来る元受刑者のうち、ストーリーの要となるのが同僚殺しの工藤誠(森田剛)。
二十数年前に彼は弟・実と共に眼前で母親をDV男たる実の父親(リリー・フランキー)に殺され、暫く施設で暮らしていたという背景がある。同僚を殺したのもそれに絡む衝動殺人らしい。仮釈放後真面目に自動車整備工場に勤めていた彼が最後の面談を経れば保護観察解除になるというその当日、姿を消す。
世間で、警官が襲われて拳銃を奪われ、DV家庭の世話をする職員、児童施設の職員が殺されるという連続殺人が沙汰される折、佳代は、中学時代の同級生である刑事・滝本真司(磯村勇斗)から、その拳銃強奪・連続殺人事件の容疑者として誠を追っていると告げられる。
その容疑を信ずることができない彼女は彼の居場所を探ろうとし、誠の父親の弁護をした女性弁護士・宮口エマ(木村多江)を訪れる。
観客は既に犯行が弟によるものと知っているので、警察の認識との落差により一種のサスペンスが生じるわけだが、同時にじりじりさせられもする。いくらDNAが一致したとは言え、一緒に施設にいた弟にまるで考えが及ばないのは余りに非常識なのである。警察の無能を描く作品ではないので、終盤のドタバタを含め捜査ものとして不満が残る。
それにしては星が多いではないかと不審に思われるだろう。僕は、ヒューマンな内容を力まずに綴ったところに好感を覚えたというのがその理由である。
有村架純の演技に色々難が指摘されるが、作品が力んでいないという印象を醸成するのは彼女のキャラクターによるところが大きく、その達成度にさしたる問題はないと思われる。中でも、中学時代に他人の死によって“生かされた命” と認識した彼女だから、終幕の命の危険性のある状況であのような自然な態度が取れたのか!と納得させる点で貢献が大。
それに関して重要な役目を果たす中原中也詩集の扱いが、狂言廻し的でなかなか素敵だ。本好きには嬉しい。
保護司と保護観察官は違う。凡人には無償の保護司の真似はちと出来ず、頭が下がります。
2022年日本映画 監督・岸善幸
ネタバレあり
同名人気コミック(香川まさひと・作、月島冬二・画)をTVドキュメンタリー出身の岸善幸が映画化した。
福祉絡みの連続殺人をヒューマンな仕立てで扱うというアングルは、先日観た「護られなかった者たちへ」と似たものである。
主人公は28歳の女性保護司・阿川佳代(有村架純)で、幾人か出て来る元受刑者のうち、ストーリーの要となるのが同僚殺しの工藤誠(森田剛)。
二十数年前に彼は弟・実と共に眼前で母親をDV男たる実の父親(リリー・フランキー)に殺され、暫く施設で暮らしていたという背景がある。同僚を殺したのもそれに絡む衝動殺人らしい。仮釈放後真面目に自動車整備工場に勤めていた彼が最後の面談を経れば保護観察解除になるというその当日、姿を消す。
世間で、警官が襲われて拳銃を奪われ、DV家庭の世話をする職員、児童施設の職員が殺されるという連続殺人が沙汰される折、佳代は、中学時代の同級生である刑事・滝本真司(磯村勇斗)から、その拳銃強奪・連続殺人事件の容疑者として誠を追っていると告げられる。
その容疑を信ずることができない彼女は彼の居場所を探ろうとし、誠の父親の弁護をした女性弁護士・宮口エマ(木村多江)を訪れる。
観客は既に犯行が弟によるものと知っているので、警察の認識との落差により一種のサスペンスが生じるわけだが、同時にじりじりさせられもする。いくらDNAが一致したとは言え、一緒に施設にいた弟にまるで考えが及ばないのは余りに非常識なのである。警察の無能を描く作品ではないので、終盤のドタバタを含め捜査ものとして不満が残る。
それにしては星が多いではないかと不審に思われるだろう。僕は、ヒューマンな内容を力まずに綴ったところに好感を覚えたというのがその理由である。
有村架純の演技に色々難が指摘されるが、作品が力んでいないという印象を醸成するのは彼女のキャラクターによるところが大きく、その達成度にさしたる問題はないと思われる。中でも、中学時代に他人の死によって“生かされた命” と認識した彼女だから、終幕の命の危険性のある状況であのような自然な態度が取れたのか!と納得させる点で貢献が大。
それに関して重要な役目を果たす中原中也詩集の扱いが、狂言廻し的でなかなか素敵だ。本好きには嬉しい。
保護司と保護観察官は違う。凡人には無償の保護司の真似はちと出来ず、頭が下がります。
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