映画評「ライオン・キング」(2019年)

☆☆★(5点/10点満点中)
2019年アメリカ=イギリス合作映画 監督ジョン・ファブロー
ネタバレあり

地上波放送だが、CMによる中断はあるものの、本編はノーカット。吹替版では観ないのが我がポリシーでもアニメだから問題なしと判断して観た。ディズニーらしく歌のあるところで若干気になったが。

1994年に公開された二次元アニメ版について、日本の一部アニメ・ファンから「ジャングル大帝」のぱくりだという程度の低い意見が提示され、手塚治虫亡き虫プロがディズニー擁護に回ったのを思い出す。

本作は一部で実写版リメイクと喧伝しているが、3DCGによるもの、つまりアニメに過ぎない。撮影者はいるので一部実景は実写になるのだろう(もしくは基になる映像を撮影した)。ディズニーの日本法人が超実写版と言っているのは、超実写は実写を意味しないので、その通りで良い。

お話は、実質的に、お子様向け若しくはハッピーエンド版「ハムレット」だ。
 動物王国プライドランドのハムレットたる子獅子シンバが、息子を助けようと巻き込まれたムーの暴走から逃げて崖上に辿り着いた父王ムファサを叔父スカーに蹴落とされて殺され、その責任を追う形で、後でハイエナと組んで新王を名乗るスカーに追い出される。
 シンバはイボイノシシとミーアキャットと親しくなり草食ライオンに変身、王国に戻る気などさらさらないが、長老マントヒヒに連れて行かれた池で、自分の影像に父王(「ハムレット」では父王の亡霊を見る)を見出し、荒廃したプライドランドに戻り、自ら兄殺しを告白したスカーと対決する。

お子様向けとしては、色々葛藤を経験するシンバの成長記として理解すれば良いだろう。
 大人は “生命の輪” という観念を考えるべし。 これは、 適切な食物連鎖により維持される生物の数量バランスを言っているのだが、現実の世界はミーアキャットらの言う直線に近いのかもしれない。映画は “生命の輪” 派が最終的に勝利するも、環境破壊が益々進む実世界の現状を考えると、大人の鑑賞者としては複雑な思いをするわけである。
 プライドランドのバランスを壊しているのはハイエナだが、実世界では人間である。ハイエナがスカーを始末して退散するのは、あるいは、人類の運命をハイエナの運命に仮託しているのかもしれない。

個人的に、アメリカで評価の高いオリジナル同様、余り面白く感じられず、平均的といったところ。1990年代にディズニーは復活したが、世評に反して僕はディズニーご本体のアニメをそう楽しまない口だ。

監督は h のないジョンだ。取引先のアメリカ人に “あなたのジョンには何故 h がないのですか?”と聞いたら、”僕はユダヤ人だから”と言っていたのを思い出す。苗字がポールという珍しい人で、あなたは一人でビートルズの半分をやっていると言ったら、笑っていた。

この記事へのコメント

2023年01月15日 10:18
>色々葛藤を経験するシンバの成長記

そうです、そういうおはなしとして楽しみました。

>3DCG
3DCGで、この映画の場合は疑似実写を目指したみたいで、アニメならではの現実にはあり得ない動きの楽しさみたいなのはなかったですね。
子供向け作品でミュージカルなら、ちょっとアニメならではの楽しさを見せてもよかったんじゃないかって。
オカピー
2023年01月15日 12:44
nesskoさん、こんにちは。

>アニメならではの現実にはあり得ない動きの楽しさみたいなのはなかったですね。

リアリズムを採ると、そういうマイナス面が出て来ますよね。