映画評「アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2018年アメリカ映画 監督アラン・エリオット、シドニー・ポラック(オリジナル版)
ネタバレあり
ビートルズの「レット・イット・ビー」の撮影で使われたフィルムを再構築した「ザ・ビートルズ:Get Back」と同じく、オリジナル映画のフィルムを再利用したという意味で(そうは見えなくても)入れ子構造のドキュメンタリーである。但し、「レット・イット・ビー」と違って、シドニー・ポラックが担当したオリジナルはついぞ日の目を見なかったらしい。この形では、出演者は全てアーカイブ・フッテージという扱いである。
アレサ・フランクリンは白人・黒人を問わずアメリカ人が一番好きな歌手で、何年か前にローリング・ストーン誌が行った【偉大な歌手】投票で堂々たる1位に選ばれた。十数年前から数年間輸入盤を買い集めた時期最初に買ったのが彼女の5枚組セットである。60年代後半から70年代初めにかけて不動のソウル・シンガーの地位を得た時代の名盤5枚。
オリジナルの映画は、1971年、「レット・イット・ビー」に似て、新作レコードをニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会でのライブで録音する様子を収録するという形でまとめるつもりだった。しかし、画面と音声とをシンクロさせるのが当時の技術では出来ず、完成しなかったということだ。
レコードの方は所期の狙い通り完成し、 1972年に「至上の愛~チャーチ・コンサート~」Amazing Grace として発表された。僕が持っている「アレサ・ライブ・アット・フィルモア・ウェスト」Aretha Live at Filmore Westの二つ後のレコードに当たる。
言うまでもなく、見どころというか聴きどころは、アレサの歌である。タイトルにも使われている有名な讃美歌「アメイジング・グレイス」のゴスペル版や、最後の Never Grow Old が圧巻。 「アメイジング・グレイス」で牧師クリーブランド師が感動の余り演奏を止めて、涙をぬぐうところがある。彼あるいは彼らは歌詞に反応した宗教的感動を示しているのだが、僕らキリスト教に関係ない一般的日本人はその迫力満点の歌声に感動するのだ。
他にキャロル・キングの「君の友だち」You've Got a Friend をゴスペル化したものも楽しめる。
ドラマ映画の監督ポラックが何故音楽ドキュメンタリーの担当になったか解らないが、絵的に面白いロー・アングルなどはドラマ監督ならではのアイデアなのかもしれない。
ブラックレコード時代末期の1980年頃編集された【ローリング・ストーン・レコードガイド】によれば、後年僕が買った彼女のCD5枚組のうち、当時廃盤になっていなかったのは多分一枚だけ。その数年後CD時代が到来して20世紀末までに古い名盤の大半がCDとして再発売された。CDには音楽ファンにかかる恩恵をもたらしたという功績がある。サブスクリプションによりなかなか手を出しにくいアルバムも手に入る時代になったが、余りに供給の多い時代なのでタイム・パフォーマンスなどという変な価値観も生まれている。しかし、タイム・パフォーマンス方式で作品に触れることこそ時間の無駄、と井筒和幸監督が述べている記事を先程読んだ。僕もそう思う。表面的に三作品を知るより、一作品を堪能するほうがその人の為になる。趣味の類におけるタイム・パフォーマンスは結局他人との関係を意識して生まれた本末転倒の価値観だろう。
2018年アメリカ映画 監督アラン・エリオット、シドニー・ポラック(オリジナル版)
ネタバレあり
ビートルズの「レット・イット・ビー」の撮影で使われたフィルムを再構築した「ザ・ビートルズ:Get Back」と同じく、オリジナル映画のフィルムを再利用したという意味で(そうは見えなくても)入れ子構造のドキュメンタリーである。但し、「レット・イット・ビー」と違って、シドニー・ポラックが担当したオリジナルはついぞ日の目を見なかったらしい。この形では、出演者は全てアーカイブ・フッテージという扱いである。
アレサ・フランクリンは白人・黒人を問わずアメリカ人が一番好きな歌手で、何年か前にローリング・ストーン誌が行った【偉大な歌手】投票で堂々たる1位に選ばれた。十数年前から数年間輸入盤を買い集めた時期最初に買ったのが彼女の5枚組セットである。60年代後半から70年代初めにかけて不動のソウル・シンガーの地位を得た時代の名盤5枚。
オリジナルの映画は、1971年、「レット・イット・ビー」に似て、新作レコードをニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会でのライブで録音する様子を収録するという形でまとめるつもりだった。しかし、画面と音声とをシンクロさせるのが当時の技術では出来ず、完成しなかったということだ。
レコードの方は所期の狙い通り完成し、 1972年に「至上の愛~チャーチ・コンサート~」Amazing Grace として発表された。僕が持っている「アレサ・ライブ・アット・フィルモア・ウェスト」Aretha Live at Filmore Westの二つ後のレコードに当たる。
言うまでもなく、見どころというか聴きどころは、アレサの歌である。タイトルにも使われている有名な讃美歌「アメイジング・グレイス」のゴスペル版や、最後の Never Grow Old が圧巻。 「アメイジング・グレイス」で牧師クリーブランド師が感動の余り演奏を止めて、涙をぬぐうところがある。彼あるいは彼らは歌詞に反応した宗教的感動を示しているのだが、僕らキリスト教に関係ない一般的日本人はその迫力満点の歌声に感動するのだ。
他にキャロル・キングの「君の友だち」You've Got a Friend をゴスペル化したものも楽しめる。
ドラマ映画の監督ポラックが何故音楽ドキュメンタリーの担当になったか解らないが、絵的に面白いロー・アングルなどはドラマ監督ならではのアイデアなのかもしれない。
ブラックレコード時代末期の1980年頃編集された【ローリング・ストーン・レコードガイド】によれば、後年僕が買った彼女のCD5枚組のうち、当時廃盤になっていなかったのは多分一枚だけ。その数年後CD時代が到来して20世紀末までに古い名盤の大半がCDとして再発売された。CDには音楽ファンにかかる恩恵をもたらしたという功績がある。サブスクリプションによりなかなか手を出しにくいアルバムも手に入る時代になったが、余りに供給の多い時代なのでタイム・パフォーマンスなどという変な価値観も生まれている。しかし、タイム・パフォーマンス方式で作品に触れることこそ時間の無駄、と井筒和幸監督が述べている記事を先程読んだ。僕もそう思う。表面的に三作品を知るより、一作品を堪能するほうがその人の為になる。趣味の類におけるタイム・パフォーマンスは結局他人との関係を意識して生まれた本末転倒の価値観だろう。
この記事へのコメント
以前何かのコメントでこの映画の事に触れた記憶があるのですが…何を書いたかのでしたかね…
多分「アレサのこらさ」(当時の大橋巨泉の元祖親父ギャグ。ビートポップス、観てました? ^_^) とは書いてないはずですが。
すいません。まじめに思い出すと、「アレサはそこまで好きじゃないけれど、アメイジンググレイスの歌声には神が宿っておりましたね」とか? 確かにそう思いましたよ。
それにしても、なんかローリングストーン誌ってギタリストはジミヘン,歌手はアレサにしといたら取り敢えずOKという暗黙の了解があるような気がしますね。
>ビートポップス、観てました?
いやあ、ラジオで洋楽は聞いていましたが、TVではまだ歌謡曲だけだったかなあ?
「アレサのこらさ」は知りませんが、「牛も知ってるカウシルズ」は有名で、知っています。大橋巨泉本人が何度か繰り返したのかな?
星加ルミ子も出ていたようですね。
ご本人曰く、ビートルズの「シー・ケイム・イン・スルー・ザ・バルスーム・ウィンドウ」のモデルは彼女だとか。こっそりホテルのどこかの窓から入って、缶詰め状態の彼らに会ったそうです。
>ローリングストーン誌ってギタリストはジミヘン,歌手はアレサにしといたら取り敢えずOKという暗黙の了解
ジミヘンは日本のギター小僧も好きで、暫くはジミヘン、クラプトン、ジミー・ページ、ジェフ・ベックという感じが続くでしょうねえ。
今年度再度同じ試みをしても、仰るように、確かにアレサが一番人気。しかし、今回はベスト10全員が有色人種となり、恐らくポリ・コレ的配慮による選考者の選考(ややこしいですね)の影響があるようで、少々複雑な心境です。