映画評「リスペクト」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2021年アメリカ=カナダ合作映画 監督リーズル・トミー
ネタバレあり

先年亡くなったアレサ・フランクリンの伝記映画である。

バプティスト教会の牧師C・L・フランクリン師の娘として生まれた環境や BLM や MeToo 運動の流れが続く時代性もあり、些かポリ・コレ的なプロパガンダの匂いがしないでもなく、場面によってはそれが気になるところがあるが、昨日のライブ映画の再現に終わる幕切れで、宗教とは全く関係なく「アメイジング・グレイス」の歌詞が彼女の人生に重なるのを見出し、感極まって涙した。

自宅のパーティーにサム・クックやダイナ・ワシントン(メアリー・J・ブライジ)も訪れる幼少時代から音楽に天才ぶりを発揮したアレサ(ジェニファー・ハドスン)は、映画では詳細な描写は省かれているが、ローティーンのうちに子供を二人設け、父親フランクリン師(フォレスト・ホイッテカー)の反対を押し切って音楽業界の男性テッド・ホワイト(マーロン・ウェイアンズ)と結ばれる。しかし、彼が直情径行的な暴力性のある男性と判って、次第に離れていく。
 ポピュラー歌手として1961年にコロンビア・レコードでデビューするが、ジャズを歌わせ続ける社の方針の為に彼女の思うようなヒットが生れない。アトランティック・レコードに移って有名なマッスルショールズのフェイム・スタジオの白人ミュージシャンをバックに歌った「あなただけを愛して」I Never Loved a Manで漸く念願のヒットを放ち、以降「リスペクト」「ナチュラル・ウーマン」「シンク」などお馴染みのヒット曲を連発する反面、テッドや父親の束縛に苦しんでアルコール依存症になるが、自らの力でそれを克服、ゴスペルに特化した「至上の愛~チャーチ・コンサート~」の名唱に至るのである。

この映画を観た後かのライブ映画をもう一度観ると、あの父親のコメントにもっと感動できるだろう。逆に、本作のコンサート前の父親の台詞はあの場での実際の言葉に基づいて書かれているのも解る。

1969年アトランティック・レコードのジェリー・ウェクスラー(マーク・マロン)が “ビートルズの曲を歌え” と迫る場面がある。映画の中では断っているように見えるが、実際の彼女はポール・マッカートニーが彼女の為に書いたとも言われる「レット・イット・ビー」をご本家のシングル発表の前に発表している。
 僕がこれを敢えて書きたかったのは、酒に溺れている彼女の前に死んだ母親が現れ彼女の立ち直らせるからで、これはポールが死んだ母親メアリーが現れたことを歌ったことに則っているように思われるからである。しかも、「レット・イット・ビー」のメアリーは聖母マリアと解釈して良いとポールは言っている。
 映画の中でアレサは、あれはカトリックの曲だからバプティストの自分は歌わないと拒否するのだが、彼女が立ち直るきっかけとなったあの場面の背後にこの曲の内容が流れていると思われて大いに心が動いた。その感動がそのまま「アメイジング・グレイス」に繋がり、圧倒されたのである。

最後の教会の場面では、ライブ映画のカメラ・アングルがそのまま再現されているところがあってニヤッとさせる。この順番で見て正解だった。

この記事へのコメント

モカ
2023年01月22日 11:31
こんにちは。


>自宅のパーティーにサム・クックやダイナ・ワシントン(メアリー・J・ブライジ)も訪れる幼少時代から音楽に天才ぶりを発揮したアレサ(ジェニファー・ハドスン)

  他にもエラフィッツジェラルド、デュークエリントンがいてアートテイタムのピアノ伴奏で歌うって! 本当だとしたら凄いですね! 

それにしてもジェニファーハドソン、出世しましたね。シュープリームスで世に出て今やアレサをやってしまったら後が無い? 

 せっかくメアリーjブライジをダイナワシントンに起用したんだし歌って欲しかったですね。ヒップホップのクイーン様ですがレニークラヴィッツのアルバムで1曲参加してブルースを歌ってたのが流石と言うか当たり前と言うか上手かったです。
ヒップホップ系の人でも基礎は出来てる? ^_^
ローリンヒル然り、クイーンラティファはべシースミスを演ってましたしね。

ひとつ気になったのが些細な事なんですが…
アレサがコロンビアレコードに見切りをつけてアトランティックを訪ねた時、アトランティックの社長が「君のスカイラークを聴いて持ち歌にしていたエタジェイムスがとても敵わないと歌うのをやめたよ」(大意)と言うのですが、エタジェイムスファンのモカさんとしては「えぇぇ〜そんな話知らんしぃ〜」だったのです。
字幕担当者がエタジョーンズと間違えたか?とも思いましたがそうでもないようで、
検索かけたらツイートがひとつ見つかって、英語は分からないので間違っているかもしれませんがエタジェイムスがアレサの音域の高さに驚いてサラヴォーンの所に駆け込んだら、サラヴォーンが「アンタ、彼女のスカイラーク聴いた? あたしゃあれを聴いてスカイラークはもう2度と歌わないことにしたよ」とエタに言ったそうです。多分…知らんけど…^_^

オカピー
2023年01月22日 22:16
モカさん、こんにちは。

>アートテイタムのピアノ伴奏で歌うって! 本当だとしたら凄いですね! 

凄いですね^^
去年アート・テータムのライブをCD化しました。何分古いので音は余り良くありませんが、流麗なピアノです。

>せっかくメアリーjブライジをダイナワシントンに起用したんだし歌って欲しかったですね。

その通りです。
親心を発揮して憎まれ口をたたくだけではね(笑)

>検索かけたらツイートがひとつ見つかって

見つけました。
モカさんの仰る通りのことが書いてありました。
都市伝説かもしれませんがね。これを脚本に採用するなら、少しアレンジするくらいのことは考えるでしょうね。
2023年01月23日 11:35
こんにちは。

>親心を発揮して憎まれ口をたたくだけではね

 ちゃぶ台返しもしてましたよ!  
 6回くらい結婚してますし鉄火肌の人でしたからね…ちゃぶ台返しなんて日常茶飯事だったかもですね。
 話が逸れますが(私は大体話を逸らしますね。それも又楽し、と言う事でお付き合い下さいませ) アルパチーノとジョニーデップの「フェイク」の冒頭でダイナワシントンの a stranger on earth が一瞬流れるのですが、これが良いんですよ。
あっ,ダイナワシントンやぁ!と思った瞬間に映画への期待値がグッと上がって、結果期待を裏切らない映画で、こういうのは凄く嬉しいですね。

話をどんどんアレサから逸らしてしましますが最後に繋げる算段ですのでもう少しお付き合いの程、願います。
 エタ・ジョーンズの名前をあげたら急に思い出して、「そう言えば日本ではあんまり有名じゃないみたい」と思い検索してみたら「LOVE JAZZ」という素敵なサイトを見つけました。私より2回り近く若そうな大阪の女性が主なんですが、共感するところが多々ありました。
でね、エッタ・ジョーンズの事も色々書いておられてしっかり聞き直したくなりました。エッタ・ジョーンズを評してその方曰く「エモーショナルなんだけど、おおげさじゃない」←そう、まさに私もそこが大事だと思うんですよ。
アレサってね、本当に凄いと思うけれど2曲以上は続けて聴けないですね。
エモーショナル過ぎるというか大げさすぎると言うか…疲れます。平伏して参りました、って言いたくなる。

こんな事を言うと異論噴出かもしれませんが個人的見解という事で…例えばクリスティーナアギレラとか、他にもいますけれど、歌唱力があると評される歌手は声のアクロバットのように歌い上げるんですよね。
スゴいやろ!こんな声出るでぇ!と言わんばかりにね。まぁそれが受ける訳だから時代の流れかもしれませんが。
でも老婆は皆んながアレサ・フランクリンにならなくても良いのにねぇ、と思うのですよ。
モカ
2023年01月23日 12:55

すいません。名前が抜けてました。
オカピー
2023年01月23日 18:56
モカさん、こんにちは。

>名前

何度も言いますが、これはブログの設計が良くない。
名前なしに投稿できてはいけないんです。シーサーというより、ウェブリも以前は名前なしの投稿が出来なかったのに、大きくシステム変更した時に改悪されてしまいました。

>ちゃぶ台返しもしてましたよ!

それを含んでおりました^^

>「フェイク」の冒頭でダイナワシントンの a stranger on earth が一瞬流れるのですが、これが良いんですよ。
>あっ,ダイナワシントンやぁ!と思った瞬間に映画への期待値がグッと上がって、結果期待を裏切らない映画で、こういうのは凄く嬉しいですね。

僕はロックでそういうことがありますね。
スペンサー・デーヴィス・グループの曲(ギミー・サム・ラヴィンなど)がかかると妙に嬉しくなります。

>エタ・ジョーンズの名前をあげたら急に思い出して、「そう言えば日本ではあんまり有名じゃないみたい」

そうですなあ、僕も知らないし(笑)

>エモーショナル過ぎるというか大げさすぎると言うか…疲れます。
>歌唱力があると評される歌手は声のアクロバットのように歌い上げるんですよね。
>アレサ・フランクリンにならなくても良いのにねぇ、と思うのですよ。

これについては同感ですね。
日本でも現在上手いとされる歌手は、ソウルというかR&Bの影響下にある歌手が多いと感じています。確かにソウルの歌手は皆うまいですが、何だか傾向があり過ぎて面白味がない感じ。
ソウルとロックにおける歌唱力は全く違うので、ロック的な歌い方の凄味も多少は理解してほしいですね。