映画評「ベルファスト」
☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
2021年イギリス映画 監督ケネス・ブラナー
ネタバレあり
ケネス・ブラナーは監督としても高く評価されてきたが、お得意のシェークスピアものを含めて、僕は余り感心したことがない。しかし、自伝要素を投入したというこの脚本兼監督作は素晴らしい。僕がぐっと来るモノクロ主体の作品ということを差し措いても断然魅力的である。
いきなりヴァン・モリスンの曲から始まり “おっ” と思ったが、この映画の音楽担当が、ブラナーと同じく北アイルランド出身のモリスンなのであった。彼の曲はヴァン・モリスンというジャンルがあると言っても良いくらい特徴的ですぐに解る。
1969年、北アイルランドで暴動が起きる。IRAのテロかと思っているとそうではなく、プロテスタントによるカトリック住民に対する追放運動。ちょっとした宗教戦争である。
ブラナー少年に相当する9歳の少年バディ(ジュード・ヒル)の一家はプロテスタントだが、そうした運動とは距離を置いている。少年の従姉は関心を持っているようで、少年に声をかけて来る。
かかるある時、賭け好きで妻(カトリーナ・バルフ)に迷惑をかけどおしの父親(ジェイミー・ドーナン)はロンドンの出稼ぎの勤務先で評価されて好待遇をすると言われたらしく細君に移住を持ちかける。彼女にしても複雑な思いがあるが、それ以上に次男バディが友人や初恋の女の子と離れるのを嫌がっているのが気になる。
しかし、彼が大好きだった祖父(キアラン・ハインズ)が亡くなり、プロテスタントによる暴動に少年が巻き込まれたことにより俄然、長男を含めた4人でロンドンへの移住を決める。
というお話で、父親は若干問題を抱えているが、映画が鮮やかに人物造形するこの一家の構成員はこぞって素敵だ。少年に色々と金言を放つ祖父の枯れた魅力が絶大で、その彼が50年以上も愛し続けてきた老妻ジュディ・デンチもたくましい。本作で唯一気になったのは、この彼女が一人ベルファストに残されること。一家が最後に見る祖母の様子は力強いが。
本作の見るべき最たるものは、一家の信頼し合う姿であろう。少年時代我が家も仲の良い家族だったから、こういうクラシックな家族の姿にはノスタルジーを感じ、じーんとしてしまう。
この当時の庶民にとって重要であった映画も色々と活躍する。「リバティ・バランスを射った男」「真昼の決闘」(以上TV)「恐竜100万年」「チキチキ・バンバン」(以上映画館)といった映画が出て来る。
そして、父親が妻と息子を人質に取ったプロテスタント・リーダーに立ち向かって行くところで「真昼の決闘」の主題歌がかかる。あの映画と違ってこの父親の状況は孤立無援ではないものの、ブラナーがやりたかったことは理解できる。
現在以外の場面はモノクロだが、カラー映画はカラーで登場する。その場合祖母の眼鏡に映り込むスクリーンもちゃんとカラーで、手抜きをしていない。
祖父と孫の交流ぶりに、秀作「わが心のボルチモア」を思い出すデス。
2021年イギリス映画 監督ケネス・ブラナー
ネタバレあり
ケネス・ブラナーは監督としても高く評価されてきたが、お得意のシェークスピアものを含めて、僕は余り感心したことがない。しかし、自伝要素を投入したというこの脚本兼監督作は素晴らしい。僕がぐっと来るモノクロ主体の作品ということを差し措いても断然魅力的である。
いきなりヴァン・モリスンの曲から始まり “おっ” と思ったが、この映画の音楽担当が、ブラナーと同じく北アイルランド出身のモリスンなのであった。彼の曲はヴァン・モリスンというジャンルがあると言っても良いくらい特徴的ですぐに解る。
1969年、北アイルランドで暴動が起きる。IRAのテロかと思っているとそうではなく、プロテスタントによるカトリック住民に対する追放運動。ちょっとした宗教戦争である。
ブラナー少年に相当する9歳の少年バディ(ジュード・ヒル)の一家はプロテスタントだが、そうした運動とは距離を置いている。少年の従姉は関心を持っているようで、少年に声をかけて来る。
かかるある時、賭け好きで妻(カトリーナ・バルフ)に迷惑をかけどおしの父親(ジェイミー・ドーナン)はロンドンの出稼ぎの勤務先で評価されて好待遇をすると言われたらしく細君に移住を持ちかける。彼女にしても複雑な思いがあるが、それ以上に次男バディが友人や初恋の女の子と離れるのを嫌がっているのが気になる。
しかし、彼が大好きだった祖父(キアラン・ハインズ)が亡くなり、プロテスタントによる暴動に少年が巻き込まれたことにより俄然、長男を含めた4人でロンドンへの移住を決める。
というお話で、父親は若干問題を抱えているが、映画が鮮やかに人物造形するこの一家の構成員はこぞって素敵だ。少年に色々と金言を放つ祖父の枯れた魅力が絶大で、その彼が50年以上も愛し続けてきた老妻ジュディ・デンチもたくましい。本作で唯一気になったのは、この彼女が一人ベルファストに残されること。一家が最後に見る祖母の様子は力強いが。
本作の見るべき最たるものは、一家の信頼し合う姿であろう。少年時代我が家も仲の良い家族だったから、こういうクラシックな家族の姿にはノスタルジーを感じ、じーんとしてしまう。
この当時の庶民にとって重要であった映画も色々と活躍する。「リバティ・バランスを射った男」「真昼の決闘」(以上TV)「恐竜100万年」「チキチキ・バンバン」(以上映画館)といった映画が出て来る。
そして、父親が妻と息子を人質に取ったプロテスタント・リーダーに立ち向かって行くところで「真昼の決闘」の主題歌がかかる。あの映画と違ってこの父親の状況は孤立無援ではないものの、ブラナーがやりたかったことは理解できる。
現在以外の場面はモノクロだが、カラー映画はカラーで登場する。その場合祖母の眼鏡に映り込むスクリーンもちゃんとカラーで、手抜きをしていない。
祖父と孫の交流ぶりに、秀作「わが心のボルチモア」を思い出すデス。
この記事へのコメント
これはブラナー臭がしなくて素直に楽しめる作品でしたね。
お母さん役の女優さんが美人すぎる気がしますが彼のお母さんは本当にあんな美人だったのか単なる彼の趣味なのか…^_^
>ブラナー臭がしなくて素直に楽しめる
そういう言い方もできそうですね^^v
>お母さん役の女優さんが美人すぎる気がしますが彼のお母さんは本当にあんな美人だったのか単なる彼の趣味なのか…^_^
若い時は皆美しい、ということにしておきましょう^^
本当の対決のときに、ハイヌーンの音楽が流れたのは、おもしろかったですね。
「チキチキ・バンバン」は今の私などが見ても楽しめないんだろうなと思いますが、昔の、夢のある、純粋な頃(そんな時があったのか?)なら、あんなふうに心浮き立ったのかも。
>賞をとるような映画は最近、反発心が発生して
あははは。
僕は賞を獲ろうが獲るまいが、観ない事には始まらないので、洋画の場合は日本で公開されたものはチャンスがある限り大概観ます。受賞に対して疑問を呈するのも楽しみの一つ(笑)
邦画の場合は、知っている監督のものが中心。
この作品は、対象が引き立つモノクロですし、力み返っていないところが良い秀作でしたね。