映画評「四十二番街」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1933年アメリカ映画 監督ロイド・ベーコン
ネタバレあり

戦前のアメリカン・ミュージカルは、40年代に入って隆盛するMGM式のミュージカルではなく、バックステージものを兼ねたレヴュー映画が中心であった。本作もその伝で、ワーナー・ブラザーズ製作の傑作レヴュー映画である。

ブロードウェイの有名製作コンビの名の下に発表される新作ショーが話題になるなか、投資に失敗した演出家ワーナー・バクスターは、日本流に言えば失敗したら腹を切るつもりでこの新作に賭けざるを得ない。スポンサーのガイ・キビー老がご執心の女優ビービー・ダニエルズを主演に何とか漕ぎ出すものの、彼女の昔の恋人ジョージ・ブレントが町に戻ったと聞き、ヤクザを使って追い払う算段をする。
 が、好事魔多し、新米コーラスガールのルビー・キーラーがヤクザに襲われたブレントを介抱したのをビービーが誤解、ルビーと揉み会ううちに大事な足を骨折してしまう。それがショー開幕の前日である。一向に自分に靡いてこない彼女に愛想をつかしたキビー老が推薦したジンジャー・ロジャーズは自分には荷が重いと、ルビーをバクスターに推奨。彼は僅か一日でルビーを鍛えてショーに送り出すのである。

どんなレヴュー映画にもお話があるわけだが、本作の物語は、ショービジネスに生きる人の仕事における心情と恋愛感情とを巧みに交錯させ、それが互いに影響し合う様子を描いて実にしっかりしている。かりに最後のレヴューがさほどのものでなくても十分観られるレベルにある。

とは言え、やはり本作の見応えは、劇場に来た観客(本当はエキストラですが)と同じ気分で没入してしまうレヴューの面白さである。ルビーと新人男優ディック・パウエルが腰かける列車が二分されて二人が遠ざかるところなどは本当の舞台を見るような興奮を覚える一方、俯瞰によるコーラスガールが綾なす模様やコーラスガール群の股の先に男女優が見えるといったアングルは映画でしか味わえない。
 勿論本作は芝居を収めたドキュメンタリーではないから観客云々は全く意味のないことではあるものの、あたかも舞台の観客・映画の観客の両方の立場として楽しめさせるが如く本作の画面は誠にそつがない印象を覚えたので、書いたみた次第。

ルビー・キーラーは可愛らしいだけでなく、タップもなかなかやります。この映画の後にフレッド・アステアとコンビを組むジンジャー・ロジャーズと競わせてみたかったですな。

ロイド・ベーコンはミュージカル専門の監督ではないものの、印象に残るのは本作と「フットライト・パレード」(1933年)。どちらも傑作と思う。

実は本作を初めて観たのは、「コーラスライン」(1985年)を観た後のことだった。ちょっと似ているところがあるなと思ったものです。

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