映画評「ピエロがお前を嘲笑う」

☆☆★(5点/10点満点中)
2014年ドイツ映画 監督バラン・ボー・オダー
ネタバレあり

ここ十年くらいのNHK-BSは西部劇を別にすると定評のある洋画ばかりを繰り返し放映し、たまにWOWOWなどで放映した近作洋画(や時に邦画)を出して来るという様相。つまりどちらにしても僕が改めて見ようという気が起こらない状態なのだが、数年に一度WOWOWに洩れた近作が出て来ることがある。本作はまさにそれで、欧米で高い評価を得ているようである。

ユーロポール(欧州刑事警察機構)に出頭した自称天才ハッカー、トム・シリング君が、MRXやFRIENDSといった彼らが逮捕を虎視眈々と狙っているハッカー・グループも絡む、経験を語り出す。
 彼は同類のエリアス・ムバレクをリーダーとする4人組グループの一員となり、色々とハッキングを繰り返して、大物であるMRXに認めてもらおうと奮闘するが相手にされない。連邦情報局に忍び込んだ情報を与えることで認めてもらおうとするが、これはハッカー殺しを起すに終わり、やがて彼らに仲間三人を殺されてしまう。これに懲りて出頭し証人保護プログラムで守ってもらおうと考えたわけである。
 しかし、女性捜査官トリーネ・ディルホルムは、彼が多重人格者であり、仲間と称した他の三人は彼の別人格と断定、彼が付き合おうと狙っていた女子大生ハンナ―・ヘルツシュプルンクにも交流したことはないと否定される。多重人格者は保護プログラムは適用できないが、トリーネは情にほだされてシリング君を釈放する。
 しかるに、その直後、彼女は彼のマジックにしてやられたことに気付く。

というお話は、「ユージュアル・サスペクツ」(1995年)の亜流である。

この手の作品は主観ショットで推移する為にその実際は解らず、僕のように画面を主観と客観にきっちり分けて見ようとする人間には、どんでん返しの意外性に首を傾げることが多い。告白者が回想する形式の場合その場面は全て客観ショットに見えても実際には主観ショットであり、嘘があることも多いし、嘘があっても成り立つ。
 しかし、本作のようにそれが多く占めると、どんでん返しがどんでん返しにならず、その意味では夢落ちと大して変わらないのである。最近は、作者側も一回だけでは観客に突っ込こまれかねないと、どんでん返しを繰り返すことが多い。そうなると主観も客観もへったくれもなくなり、分析を放棄したくなる。僕のようなタイプの左脳派が今一つ面白がり切れない所以だ。

サイバー犯罪と多重人格を組み合わせたところが新機軸と言えるだろうが、多重人格がだしに過ぎないのが却って勿体ない。

サイバー犯罪は、これからは国家間の戦争の一部。北朝鮮はこれで稼いでいるようであるし、数年後とも沙汰される中国の台湾攻撃はまずサイバー戦から始まるとも言われている。

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