映画評「コーダ あいのうた」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2021年アメリカ=フランス=カナダ合作映画 監督シアン・ヘダー
ネタバレあり

どこかで見たことがあると思ったら、6年程前に観たフランス映画「エール!」のアメリカ翻案版でありました。自分の書いた梗概を読んだところ、本作のそれはほぼ同じ。従ったお話は省略しても良いのだが、俳優紹介を兼ねて、少し書いてみましょう。

「エール!」では酪農業だった一家の職業は漁業である。
 ヒロインの高校生エミリア・ジョーンズは、いずれも聾の父親トロイ・コッツァーと兄ダニエル・デュラントと一緒に船に乗ることもあるが、主な仕事は彼らの通訳である。
 船上でも歌うような歌好きの彼女は、学校でメキシコ人教師エウヘニオ・デルベスの指導する合唱部に入る。教師は才能を見込み、バークレー音楽大学入学を推奨、学校主催のコンサートに向けて男子同級生フェルディア・ウォルシュ=ピーロとのデュエットを指導しつつ、放課後の個人授業も申し出る。
 しかるに、一家が彼女に頼る為に遅刻することが多くて教師を怒らせ、また同じく聾の母親マーリー・マトリンは父親同様に彼女の音楽学校進学に反対する。折しも聾である為に補助員を置かない限り漁はまかりならぬと当局に言い渡された為に彼女は家の為に犠牲になる気になる。しかし、兄は彼女の決心に反対、学校のコンサートを観た父親も喉に手を当てて彼女の歌を聞いて翻意、かくして彼女の大学受験が決まる。

オリジナルのヒロインが合唱部に入る目的は少々不純だが、それはともかく、いずれも家族の為に一度は諦めかけた夢をその家族のバックアップで実現するサクセス・ストーリーのうちに家族の絆を浮かび上がらせる、今日らしい構成である(以上、オリジナルの映画評で書いたものとほぼ同じ。すみません)。
 これもオリジナルで書いたことの繰り返しだが、聾という弱者を扱いながら露骨な性愛がらみの言動を大量に交える辺りは、日本映画にはなかなか出来ない芸当。差別しないのは勿論大事であるが、逆に腫れ物に触れるように扱う態度もまた一種の差別ではないかと思うわけで、この辺りの扱いに欧米映画は一日の長がある気がする。

出来栄えもオリジナルと大差ないと思うが、大学受験で披露される曲がジョニ・ミッチェルの「青春の光と影」Both Sides Now であり、デュエット曲がマーヴィン・ゲイとタミー・テレルの「ユア・オール・アイ・ニード・トゥ・ゲット・バイ」You're All I Need to Get By であるなど、僕らの世代にお馴染みの曲につきフランス版より感覚的に親しみやすくなっているというところがある。若い人には多分関係ないでしょうがね。

ヒロインに扮するエミリア・ジョーンズの英国女性らしい可愛らしさも買い。

コーダと言うとレッド・ツェッペリンを思い出すが、こちらは音楽用語ではなく Children of Deaf Adults (聾の親を持つ子供)の略らしい。音楽が絡む映画だから少々ややこしい。

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