映画評「獣人」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1938年フランス映画 監督ジャン・ルノワール
ネタバレあり
登場人物が1200人にも及ぶという、エミール・ゾラの【ルーゴン・マッカール叢書】から「獣人」をジャン・ルノワールが映画化した。1990年頃一度観ている。
先祖からの遺伝で愛する女性を見つめると暴力的衝動を抑えられなくなる発作を起こす機関士ジャック・ランチエ(ジャン・ギャバン)は、乗客として乗った列車で富豪グランモランが殺される事件に遭遇する。そのコンパートメントから出て来たのは、その養女セヴリーヌ(シモーヌ・シモン)と彼女の夫たる駅長(助役)ルボー(フェルナン・ルドー)であるが、ジャックは諸事情を慮って彼は何も見なかったことを決め込む。
異常に嫉妬深いルボーが、妻と養父との関係を怪しんだ故に起こした殺人だったのだが、彼女はこうした夫にうんざりし、親切にしてくれるジャックに傾いて半ば公然の仲となる。彼女は夫殺しを彼に教唆するが、彼は結局できない。しかし、皮肉にも、ジャックは困っているセヴリーヌを見るうちに発作が起き、絞殺してしまう。
出頭も出来ない彼は機関車に乗るが、どうにも耐え切れなくなって止めようとする相棒を殴って、機関車から飛び下り自殺してしまう。
というお話で、列車の驀進は主人公の抑えきれない狂気の膨張と重ねたくなる印象があり、特にラスト・シークエンスの驀進は自殺に向かう彼の激情の象徴を見るようで、迫力満点と言うべし。こういうのを “映画的” と言うのだろう。
恋愛喜劇の場合なかなか掴み切れないルノワールも、こういう悲劇は鑑賞者としても捉えやすい。
狂気を秘めた弱々しい主人公は戦後のジェラール・フィリップが似合いそうで、ギャバンには珍しいタイプながら、好演である。
因みに、主人公は「居酒屋」ヒロインの息子で、ナナの兄である。映画では1930年ごろに時代を移しているから、一向にそういう感じはしませんがね。
マルセル・カルネが15年後にゾラの「テレーズ・ラカン」を映画化(邦題「嘆きのテレーズ」)した時、殺害現場を湖から列車に移したのは、この映画の影響ではあるまいか?
1938年フランス映画 監督ジャン・ルノワール
ネタバレあり
登場人物が1200人にも及ぶという、エミール・ゾラの【ルーゴン・マッカール叢書】から「獣人」をジャン・ルノワールが映画化した。1990年頃一度観ている。
先祖からの遺伝で愛する女性を見つめると暴力的衝動を抑えられなくなる発作を起こす機関士ジャック・ランチエ(ジャン・ギャバン)は、乗客として乗った列車で富豪グランモランが殺される事件に遭遇する。そのコンパートメントから出て来たのは、その養女セヴリーヌ(シモーヌ・シモン)と彼女の夫たる駅長(助役)ルボー(フェルナン・ルドー)であるが、ジャックは諸事情を慮って彼は何も見なかったことを決め込む。
異常に嫉妬深いルボーが、妻と養父との関係を怪しんだ故に起こした殺人だったのだが、彼女はこうした夫にうんざりし、親切にしてくれるジャックに傾いて半ば公然の仲となる。彼女は夫殺しを彼に教唆するが、彼は結局できない。しかし、皮肉にも、ジャックは困っているセヴリーヌを見るうちに発作が起き、絞殺してしまう。
出頭も出来ない彼は機関車に乗るが、どうにも耐え切れなくなって止めようとする相棒を殴って、機関車から飛び下り自殺してしまう。
というお話で、列車の驀進は主人公の抑えきれない狂気の膨張と重ねたくなる印象があり、特にラスト・シークエンスの驀進は自殺に向かう彼の激情の象徴を見るようで、迫力満点と言うべし。こういうのを “映画的” と言うのだろう。
恋愛喜劇の場合なかなか掴み切れないルノワールも、こういう悲劇は鑑賞者としても捉えやすい。
狂気を秘めた弱々しい主人公は戦後のジェラール・フィリップが似合いそうで、ギャバンには珍しいタイプながら、好演である。
因みに、主人公は「居酒屋」ヒロインの息子で、ナナの兄である。映画では1930年ごろに時代を移しているから、一向にそういう感じはしませんがね。
マルセル・カルネが15年後にゾラの「テレーズ・ラカン」を映画化(邦題「嘆きのテレーズ」)した時、殺害現場を湖から列車に移したのは、この映画の影響ではあるまいか?
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