映画評「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」

採点放棄
2022年日本映画 監督・信友直子
ネタバレあり

不完全版鑑賞の為に採点をしなかったことはあるが、感情的な理由で採点しないのは初めて。自分の両親たちの晩年を思い出してたまらないのだ。

2年余り前に観た正編もかなり心に沁みたが、続編たる本作に対してはもはや言葉にならない。そもそもドキュメンタリーは内容中心に語るしかないので、内容と作り方の関係を軸に述べたい僕には語る面白味が薄いということもある。

そう言うそばから何ですが、前作の映画上映の模様が収められているのが映画としてそこはかとない面白味となっている。前作に使われた映像が再使用されているところもある。

前作の終盤明らかになった母親の認知症(アルツハイマー型)が次第に重くなって遂に入院する。入院してから脳梗塞も発症するが、100歳にならんとする腰の曲がった父親は毎日見舞いに行くことを決める。前回も書いたように、この老父は見かけ以上に頑固であると同時に老妻への愛情に溢れている。その様子を見るだに涙が出て来る。
 父親は、娘の信友直子監督が東京にいる時に転倒して顔を負傷した後、今度は鼠経ヘルニアを発症して1週間以上見舞いに行けなくなる。夫人は脳梗塞を再発し、それに伴って徐々に臓器が色々とやられていく。
 2020年コロナ禍が勃発して家族の面会が禁止になる。それでも、6月に先が長くなさそうだということで医者から許され、父娘は連日見舞いに行き、最期を看取ることになる。

夫人が映画の早めに入院して退院しないので、予想程には老々介護の内容になっていないが、老父としては老々介護など何するものぞの勢いで、ひたすら妻の退院を期待するのだ。その期待が見舞いへのモチヴェーションとなってい、そのモチヴェーションが生きがいになってさえいる。そのベースは勿論彼の妻に対する強い愛情である。ジーンとさせられます。

翻って、監督の御母堂のアルツハイマーは僕の目には停滞気味で、最後まで夫と娘を認識できたようである。
 映画のハイライトとも言うべきは、転院するのを利用して、もう帰宅は不可能となった彼女を自宅に連れ帰る場面。言葉も発さず感情を出すことがほぼなくなっていた彼女が我が家に戻るや、涙を流す。病気の為に激しくはないが、健常者なら嗚咽と言える状態になるのである。
 入院後わが両親が結局家を再び見ることなく逝ったのを思い出し、まさに我がことのように涙を抑えきることができなかった。信友監督、実に良いことをしたよ。

老々介護は確かに問題だが、それが生きがいになる人もいるのだから、全ての人を同じように見て語るのは間違いであることを知らしめる。
 両親の苦闘度が高まっている為、映画としては正編に比べ客観的に捉えるという態度が希薄になっている感じがするが、ここに至ればそれを問題にしても仕方あるまい。信友監督の両親への愛情もまた強い。

良い病気などあるはずはないが、認知症は家族が精神的に辛いことが多そうだ。本人も自分の変化を認識できる初期は辛いのではないかと思う。

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