映画評「金の糸」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2019年ジョージア=フランス合作映画 監督ラナ・ゴゴベリーゼ
ネタバレあり

ジョージアの映画も今世紀に入って、オタール・イオセリアーニ監督の作品が少なからず紹介されているが、それ以外の監督は二人目か三人目である。
 本作を作った女性監督ラナ・ゴゴベリーゼは、1928年生まれの大ヴェテランで、僕は初めて観る。事前に述べておくと、一般的な意味でそう面白いとは言い難い。

時は現在。物書きを目指したが叶わず、今でも立派な文章を書いている老婦人エレネ(ナナ・ジョルジャーゼ)は誕生日を誰にも祝ってもらえない寂しさを味わう。そんな折アルツハイマーを発症した娘の姑ミランダ(グランダ・ガブニア)と嫌々ながら同居する羽目になる。彼女を嫌うのはソ連時代に政府高官だったからだ。
 それと並行して、かつての恋人で同好の士アルチル(ズラ・キプシゼ)から妻を失って孤独だからと電話がかかるようになってくる。話が進行するうちに、ヘレネとミランダが彼を巡ってちょっとした三角関係にあったことが判ってくる。
 ヘレネは将来を掛けた自信作を当局に封印され、その後の人生を大きく狂わされた苦い過去を引きずっているのだが、ミランダがそれを実行した張本人と知って怒り心頭に発する。怒りの口撃を受けたミランダはアルツハイマーのせいで過去に引き戻されて町を彷徨する。
 その間にヘレネは名前の同じひ孫とサボテンの花について語り合い、アルチルと会話するうちに、過去に呪縛もされないと同時に苦い昔も日本の金継ぎ(金を使った陶磁器修復技術)のように継ぎ合わせて忘れずにいようという境地に達する。

80歳にならんかという老婦人をつかまえて成長という言葉もどうかと思うので、人間として達観した境地に辿り着くまでのお話と言っておきましょう。

やや迂回しながら進行するものの、ヘレネ(恐らくは監督を投影)にとって苦い思い出とともに甘いロマンスもあったソ連時代をベースに置いて、老境の変化を綴ったものとして決して解りにくいものではない。事実上のゴゴベリーゼ監督の心境映画と言って良いのではいだろうか。ヒロインが演劇の異化効果のように画面に向って語る箇所が3,4か所あるが、これが却って監督自身の言葉のように感じさせる効果がある。

画面では、家の一方の窓は道路に面してい、一方のベランダは廻廊状の建物の一部分であるような家の構造が面白い。ヒロインはそこから色々な人の人生を眺めているのである。
 曾祖母と仲が良いひ孫との関係を描いた部分も素敵だ。

こういうお話を見ると、「ロング・アンド・ワインディング・ロード」を思い出さずにはいられないビートルズ・ファンの僕です。

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