映画評「BILLIE ビリー」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2019年イギリス映画 監督ジェームズ・アースカイン
ネタバレあり
二重構造のドキュメンタリーである。扱われるのは、64年前に44歳で亡くなったジャズ・シンガーのビリー・ホリデイ。
このドキュメンタリーの基礎の部分は、1978年に亡くなった女性ジャーナリスト、リンダ・リプナック・キュールがビリー・ホリデイの関係者から10年に渡って聞き取ったテープ音源である。
彼女を白人バンドと結びつけたプロデューサーのジョン・ハモンド、バンド・リーダーのカウント・ベイシーやアーティ・ショー、その他もろもろの演奏家の証言が紹介される。現在ならなかなか言えないことも色々と語られるが、ネガティヴでも音楽関係者から出る発言には愛情が感じられ、特段マイナスに感じられない。
ビリー・ホリデイの麻薬漬けは述べるまでもない。両性愛者(アルフレッド・ヒッチコックの「救命艇」に出演したタルラ・バンクヘッドとの同性愛関係はよく知られているらしい)、マゾヒスト(禄でもない伴侶を次々と持ち、そのいずれも暴力傾向があった)、等々。
彼女を見た精神科医によれば、精神病質であったらしい。彼女のような破滅型は、多かれ少なかれ、精神病質でなかろうか。
今更言うまでもないアパルトヘイトが行われていた1960年代以前のアメリカでは実に複雑な様相が呈されてい、黒人が成功するのは芸能界でも非常に難しいことであったが、成功したらしたなりに複雑な渦の中に入って行くことになる。どんなに大スターでも、アパルトヘイトの例外になることはなく、こんな状況ではまともに生まれても精神病質にならないほうがおかしいのかもしれない。これが麻薬禍に陥り、最終的には寿命を縮める原因となったのではないか。
ある人物の証言に “トップに立った女性歌手は破滅する” というのがあり、ビリー・ホリデイの他に思い浮かぶのは、ジャニス・ジョプリンと近年のホイットニー・ヒューストンである。いずれも薬が絡んでいる。
音楽関係者以外の証言では「ザ・ユナイテッド・ステイツVSビリー・ホリデイ」の主役でもあった黒人の麻薬捜査官ジミー・フレッチャーのもあるが、ごく短く特段のことは話していない。
この基礎部分の上に重なるのが、インタビュアーのリンダ・キュールの死についてである。死んだワシントンDCの当局は “自殺(墜落死)” としているが、彼女の妹である、本作に登場する人物で唯一現在撮られたマイラ・ラフトマンさんは ”何者かに突き落とされたのだろう(自殺する人間が顔面パックしているのは不自然)” と考えている。
国家絡みとも思えず、前段でのコメントに、インタビューするうちに懇意になったカウント・ベイシーの周囲が、36歳も年の離れた関係に絡んで脅迫してきたというのがあり、この関連かもしれないが、しかし、これくらいのことで殺しが起ころうか?
社メッセージ・ソング「奇妙な果実」を歌い続け白人社会と闘っているかのように見えたビリーに共感し興味を持ったとも推測されるリンダ嬢と、不世出の大歌手の人生とを、重ねるように作ってあるのが映画的な見どころだろう。
ジャズ・ファンにあっては、劇映画以外の動くビリー・ホリデイを見られるのも、嬉しいのではないか。
録画するのを忘れた。配信で観られたが、WOWOWはもう一度放送してくれないかな。
2019年イギリス映画 監督ジェームズ・アースカイン
ネタバレあり
二重構造のドキュメンタリーである。扱われるのは、64年前に44歳で亡くなったジャズ・シンガーのビリー・ホリデイ。
このドキュメンタリーの基礎の部分は、1978年に亡くなった女性ジャーナリスト、リンダ・リプナック・キュールがビリー・ホリデイの関係者から10年に渡って聞き取ったテープ音源である。
彼女を白人バンドと結びつけたプロデューサーのジョン・ハモンド、バンド・リーダーのカウント・ベイシーやアーティ・ショー、その他もろもろの演奏家の証言が紹介される。現在ならなかなか言えないことも色々と語られるが、ネガティヴでも音楽関係者から出る発言には愛情が感じられ、特段マイナスに感じられない。
ビリー・ホリデイの麻薬漬けは述べるまでもない。両性愛者(アルフレッド・ヒッチコックの「救命艇」に出演したタルラ・バンクヘッドとの同性愛関係はよく知られているらしい)、マゾヒスト(禄でもない伴侶を次々と持ち、そのいずれも暴力傾向があった)、等々。
彼女を見た精神科医によれば、精神病質であったらしい。彼女のような破滅型は、多かれ少なかれ、精神病質でなかろうか。
今更言うまでもないアパルトヘイトが行われていた1960年代以前のアメリカでは実に複雑な様相が呈されてい、黒人が成功するのは芸能界でも非常に難しいことであったが、成功したらしたなりに複雑な渦の中に入って行くことになる。どんなに大スターでも、アパルトヘイトの例外になることはなく、こんな状況ではまともに生まれても精神病質にならないほうがおかしいのかもしれない。これが麻薬禍に陥り、最終的には寿命を縮める原因となったのではないか。
ある人物の証言に “トップに立った女性歌手は破滅する” というのがあり、ビリー・ホリデイの他に思い浮かぶのは、ジャニス・ジョプリンと近年のホイットニー・ヒューストンである。いずれも薬が絡んでいる。
音楽関係者以外の証言では「ザ・ユナイテッド・ステイツVSビリー・ホリデイ」の主役でもあった黒人の麻薬捜査官ジミー・フレッチャーのもあるが、ごく短く特段のことは話していない。
この基礎部分の上に重なるのが、インタビュアーのリンダ・キュールの死についてである。死んだワシントンDCの当局は “自殺(墜落死)” としているが、彼女の妹である、本作に登場する人物で唯一現在撮られたマイラ・ラフトマンさんは ”何者かに突き落とされたのだろう(自殺する人間が顔面パックしているのは不自然)” と考えている。
国家絡みとも思えず、前段でのコメントに、インタビューするうちに懇意になったカウント・ベイシーの周囲が、36歳も年の離れた関係に絡んで脅迫してきたというのがあり、この関連かもしれないが、しかし、これくらいのことで殺しが起ころうか?
社メッセージ・ソング「奇妙な果実」を歌い続け白人社会と闘っているかのように見えたビリーに共感し興味を持ったとも推測されるリンダ嬢と、不世出の大歌手の人生とを、重ねるように作ってあるのが映画的な見どころだろう。
ジャズ・ファンにあっては、劇映画以外の動くビリー・ホリデイを見られるのも、嬉しいのではないか。
録画するのを忘れた。配信で観られたが、WOWOWはもう一度放送してくれないかな。
この記事へのコメント
あと、ここに並べていいのかよくわからないけど、ジュディ・ガーランドも早死にしてますかね。
早死にしていくのは薬や酒にはまって身を亡ぼすタイプになるんでしょうが、健康な人にはない吸引力があるのはたしか。自分も含めて観客になる側は残酷なんでしょうね、たぶん。
>エイミー・ワインハウスも早死にしてしまいましたね。
彼女の伝記映画を見るまで知らなかったという不届き者ですが、彼女の死も薬とアルコール絡みですよね。
>ジュディ・ガーランド
どちらかと言えば映画女優ですが、映画界よりポピュラー音楽界にこうした人物が目立つのは、業界の仕組みの違いでしょうかねえ。
>健康な人にはない吸引力
ジム・モリスンとかジミ・ヘンドリックスもこの類ですね。
リンダ・キュールの妹さんになるんですかね、彼女は「自殺する人間が顔面パックしているのは不自然」と言っていますが、私はそこまで不自然とも思わないです。事故でなく自殺とすれば飛び降りたということですよね。どうも、リンダ・キュール氏自身が精神的に不安定になっていた印象を持ちました。
>私はそこまで不自然とも思わないです。
確かに、カウント・ベイシーの取り巻きが、あの程度のことで暗殺するとも思えないんですよねえ。