映画評「トップガン マーヴェリック」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2022年アメリカ映画 監督ジョゼフ・コシンスキー
ネタバレあり

映画館で「トップガン」(1986年)を観た時は僕も後半とは言え、まだ二十代でした。21世紀になって久しぶりの続編やシリーズ最新作というのが増えているが、何と36年ぶりの続編ですよ、驚きましたな。

数十年前に空軍パイロットを養成する為に作られた訓練学校 “トップガン” の出身で今や伝説となったつわものパイロットのピート・ミッチェル大佐(トム・クルーズ)が、イランが山岳の狭隘の先で進めている核施設を完成させる前に戦闘機数機で攻撃して逃げて帰るという作戦を遂行させる為に教官として既に実績のあるトップ・パイロットたちを指導・訓練することになる。理由あって旧型機しか使えない為、第五世代の最新戦闘機とのドッグファイトを避けるべく、2分30秒の間に滑走路爆破、施設爆破を遂行して逃げ出す必要があるのである。
 パイロットたちに、腕前に関して大佐に及ぶ者はいないが、何とか作戦遂行のできる実力をつけた後、かつての大佐の同僚で現在は司令官のカザンスキー(ヴァル・キルマー)が亡くなる。
 後任者は緩い作戦に変更しようとするが、それではパイロットが犬死してしまうと、後ろ盾を失って解任されたマーヴェリックことミッチェル大佐が例によって無謀な行動を取って作戦が実現できることを示し、いよいよ実行に移す時を迎える。

これは戦争映画でも戦闘映画でもない、と思っていたら、終盤やはり戦闘映画にはなる。僕は、この映画は(主題的には)自分との闘いであり、時間との闘いだからアクションもそれで推すかと推測したものの、それではやはり今時の映画館で見せるには余りにも地味なので、大衆映画に対する観客の期待に応えて、作戦が完遂しようかという直前に敵の哨戒機3機が現れて本格的なドッグファイト・アクションになっていくのである。

さて、その肝心なドッグファイトやシミュレーション風景のカット割りは、細かく刻みながらも煩くならず精確、迫力満点と言うべし。監督は「トロン:レガシー」「オブリビオン」のジョゼフ・コシンスキーで、一作毎に確実に腕前を上げている感じがする。

梗概には含めなかったが、勿論バランスを崩さない程度にロマンス要素がある。第一作には出ていないペニーという酒場経営の女性で、演じるのは美少女時代から知っているジェニファー・コネリー。

大昔の第一作同様多少の甘さはあるが、大衆映画はこの程度で良いだろう。

余談。
 字幕では解らないが、英語ではイランという言い方をしている。映画を楽しんだ後に冷や水を浴びせるようなことを言いたくないが、本作の背景を少し考えてみる。
 本作に反映されているようにアメリカがイランに益々厳しい目を向けざるを得なくなったのは、実はトランプ大統領のイラン核合意脱退が原因である。当時のイランはまだ穏健派体制だったので、そのままにしておけばウラン濃縮問題は起きず、アメリカが味方したイスラエルも枕を高くして眠れたはずなのである。
 プーチンのウクライナ侵攻もそうだが、目的を実現しようと思って取った政策が却ってその目的達成を遠ざけてしまう政治の皮肉。

WBC準決勝。この映画のドッグファイトのように、ぎりぎりの攻防でしたね。山本投手が点を取られたのは計算外だが、打者は最終的に皆実力を発揮して勝った。アメリカの打者陣は日本以上の可能性があるが、日本の投手陣は相当良いのでキューバのようなことにはならないだろう。その意味でアメリカはメキシコに来て欲しかったと思っている筈。

この記事へのコメント

2024年04月06日 07:58
すばらしかったです。アクションの見せ方がいいんですね。ハリウッドでなければできない映画ですよ。人間ドラマも人を信じられる光景が描かれていて、娯楽映画の王道。でも、もうこれをやれるのが別格トム・クルーズしかいないというのが時代なんですね。
オカピー
2024年04月06日 22:49
nesskoさん、こんにちは。

>アクションの見せ方がいいんですね。

絶対的にそう思いましたね。

>もうこれをやれるのが別格トム・クルーズしかいないというのが時代なんですね。

スターシステム崩壊後に登場し現存する、数少ないスターシステム時代的な俳優ですね。