映画評「PLAN 75」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2022年日本映画 監督・早川千絵
ネタバレあり
三年余り前に観たオムニバス映画「十年 Ten Years Japan」第一話を早川千絵監督が拡大セルフ・リメイクした作品。極めて現実的なタッチで処理されたディストピア映画である。
超高齢化社会に関わる犯罪の増加や財政逼迫の問題を抱えた日本国が、75歳以上の高齢者が自ら死を選べる制度PLAN75を始める。
夫に先立たれ子供も持てなかった78歳の老婦人・倍賞千恵子が勤務する施設を体良く追い払われ、施設時代の親友が孤独死したのを見て、制度の “恩恵” に預かろうとする。
その最後の日々を電話で寄り添うオペレーター河合優実は彼女と接するうちに冷静ではいられなくなる。 PLAN75 に従事する職員・磯村雄太は、既に故人の両親と不仲で長い間音信のなかった叔父・たかお鷹が75歳になってこれに参加するのを知り、最後の面倒を見ようとする。
子供を残して日本で働くフィリピン女性ステファニー・アリアンはより高い給料を求めるうちこの精度で亡くなった後の遺品を処理する仕事に就く。
ディストピアと言ってもかなり現実的な内容で、欧州のスイスやベルギーで既に始まっている安楽死・尊厳死の制度をもっと緩和したものである。つまり安楽死ではなく尊厳死をぐっと自由に幅広く本人の意志だけでできるようになっているという設定だが、劇中不幸になる者は殆どいないとは言え、死を目前にした人は参加者だけでなく職員の人々も冷静ではいられない。
短編で観た時には少々冷たい印象を受けたが、この長編ではぐっと人間の感情が表に出て観客たる我々の胸に迫るヒューマンなドラマに仕上げられている。良い意味でディストピア映画は外形だけに留まり、制度以外の社会は現在の日本そのものである。
画面上で登場人物同士の視線を殆ど交錯させない画面は一見冷たいが、作者の視線は現実を直視しているのを感じる。優れた感性を持つ作家と思う。今後を大いに期待したい。
個人的には、苦痛を和らげる安楽死は、本人・家族・医師の同意をもって実現できることがあっても良いと思う。本人にも家族の為にもなり得るものであろうから。一見本人の為になるように設計されているように見える本作の制度の本当の目的は、やはり財政を好転させ若者の負担を減らすというところにあると思う。現役世代の負担を減らすことに異論はないが、これはやはりダメである。国家が自分たちのつけ(政策の失敗)を国民に支払わせるのは許しがたい。
2022年日本映画 監督・早川千絵
ネタバレあり
三年余り前に観たオムニバス映画「十年 Ten Years Japan」第一話を早川千絵監督が拡大セルフ・リメイクした作品。極めて現実的なタッチで処理されたディストピア映画である。
超高齢化社会に関わる犯罪の増加や財政逼迫の問題を抱えた日本国が、75歳以上の高齢者が自ら死を選べる制度PLAN75を始める。
夫に先立たれ子供も持てなかった78歳の老婦人・倍賞千恵子が勤務する施設を体良く追い払われ、施設時代の親友が孤独死したのを見て、制度の “恩恵” に預かろうとする。
その最後の日々を電話で寄り添うオペレーター河合優実は彼女と接するうちに冷静ではいられなくなる。 PLAN75 に従事する職員・磯村雄太は、既に故人の両親と不仲で長い間音信のなかった叔父・たかお鷹が75歳になってこれに参加するのを知り、最後の面倒を見ようとする。
子供を残して日本で働くフィリピン女性ステファニー・アリアンはより高い給料を求めるうちこの精度で亡くなった後の遺品を処理する仕事に就く。
ディストピアと言ってもかなり現実的な内容で、欧州のスイスやベルギーで既に始まっている安楽死・尊厳死の制度をもっと緩和したものである。つまり安楽死ではなく尊厳死をぐっと自由に幅広く本人の意志だけでできるようになっているという設定だが、劇中不幸になる者は殆どいないとは言え、死を目前にした人は参加者だけでなく職員の人々も冷静ではいられない。
短編で観た時には少々冷たい印象を受けたが、この長編ではぐっと人間の感情が表に出て観客たる我々の胸に迫るヒューマンなドラマに仕上げられている。良い意味でディストピア映画は外形だけに留まり、制度以外の社会は現在の日本そのものである。
画面上で登場人物同士の視線を殆ど交錯させない画面は一見冷たいが、作者の視線は現実を直視しているのを感じる。優れた感性を持つ作家と思う。今後を大いに期待したい。
個人的には、苦痛を和らげる安楽死は、本人・家族・医師の同意をもって実現できることがあっても良いと思う。本人にも家族の為にもなり得るものであろうから。一見本人の為になるように設計されているように見える本作の制度の本当の目的は、やはり財政を好転させ若者の負担を減らすというところにあると思う。現役世代の負担を減らすことに異論はないが、これはやはりダメである。国家が自分たちのつけ(政策の失敗)を国民に支払わせるのは許しがたい。
この記事へのコメント
安楽死先進国がかつてホロコーストを産んだ文化圏であることは、もっと意識されていい。ホロコーストも、対象がユダヤ系ヨーロッパ人だったから問題視されますが、植民地のアジアアフリカ人にも似たようなことをしてきてるんだと思っといた方がいいです。
>安楽死先進国がかつてホロコーストを産んだ文化圏であることは、もっと意識されていい。
これは興味深い指摘ですね。
僕は、安楽死自体は認めて良いとは思っていますが、それが国の構造的な問題を解決する為というのは違うと考えます。
>ホロコースト
>植民地のアジアアフリカ人にも似たようなことをしてきてるんだと思っといた方がいいです。
確かに。公平な立場でそれは間違いなさそうです。
日本の右派がその点をあげつらうことが良くありますが、日本無謬論に帰するのは良くない。