映画評「不都合な理想の夫婦」

☆☆★(5点/10点満点中)
2020年イギリス=カナダ合作映画 監督ショーン・ダーキン
ネタバレあり

先日の「ハッチング-孵化-」のテーマが “浮き彫りにされる幸福な家族の実態” とされていたが、英国製作のこちらのほうが余程それらしい。尤も、全く同じ構成のこちらの家族は、父親(夫)の行動によりその歯車をおかしくされる、と言うべきかもしれないが。

実業家気取りの見栄っ張り中年男性ジュード・ローが、アメリカで結婚した妻キャリー・クーンや年頃の娘ウーナ・ローシェと息子チャーリー・ショットウェルを率いて、祖国イギリスに戻り、以前いた会社で一旗揚げようとする。が、無理をして豪邸を買い、子供たちを名門校に通わせたりもするが、経営トップからは小僧扱いされ、資金を使い果たしてしまう。
 こうした折に妻は愛情を注いでいた馬に病死されて気をふさいで夫君と口論が絶えず、両親の喧嘩を見てウーナはパーティーに没入し、チャーリー君は孤独に沈む。
 所持金なしと知ったタクシー運転手に途中下車させられたローは歩いて家までとぼぼと帰り、家族全員が揃う団欒の席に着く。

大体こんなお話。

はっきりしない結末ながら、Life goes on...という純文学映画によくある終わり方で、これはこれでドラマとして完全に完結している。実際の人生には、作り物っぽい映画やドラマのような区切りはそうそうあるものではなく、この手の映画は実際の人生をなぞっているのであって、ドラマツルギー的にこの次などないのである。

映画論はさておき、心理サスペンスという見方もあるが、こけおどし的に馬の死などを出してきてヒロインの精神が一時的におかしくなるなどして、確かにそれらしい描写もあるが、ジャンルとしての心理サスペンスとは言いにくい。あくまで家族崩壊を描く純文学としての要素の一つに留まると思う。

いずれにしても、話は単純なのにまだるっこく要領を得ない作り方という印象が強く、息子の扱いなど勿体ぶりすぎるところも多く、どうもピンと来ない。

ヘイ・ジュード・ロー!

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