映画評「科捜研の女-劇場版-」

☆☆(4点/10点満点中)
2021年日本映画 監督・兼崎涼介
ネタバレあり

同じテレビ朝日系列の「相棒」ほどの興味が掻き立てられず、1999年から続いているというのに一度も観たことがない人気警察ドラマの劇場版。

京都。ウィルス学者と細菌学者が相次いで、頭痛を訴え “助けて” と叫んだ後に墜落死するという事件が発生する。
 特段の事件性が発見できず、自殺として片付けられそうなところを、腑に落ちないものを感じた京都府警捜査一課警部補土門(内藤剛志)は、その二人が東京の帝政大学細菌学者・加賀野教授(佐々木蔵之介)と接触しているという共通点を掴み、これを端緒に、ダイエット菌と彼の研究室が通称している菌をめぐる謎に、京都府警の科学捜査研究所(科捜研)の法医研究員榊マリコ(沢口靖子)が接近していく。

というお話で、TVシリーズを観ていたほうが楽しめる登場人物のルーティンや絡みがあるのは伺えるが、通常の刑事ドラマの鑑識場面以上にニッチな分野に焦点を当てているのが一応面白い。加賀野教授のドラマにおける立場も絶妙だ。

しかし、終盤サスペンスものとして許しがたい一場面がある。
 毒のある菌をかけられたヒロインが熱を測っている短いショットである。僕はこのショット以降を全て真実と考えていたから、事情を知っている警察法医研究員が何をやっているのか、と呆れてしまったのだが、その後に種明かしがある。これ以降の場面は犯人をおびき寄せる為の演技だったというのである。さもありなん。
 しかし、映画は登場人物が一人でいるところで “演技” させてはいけない。他人がいないところでは全裸でも秘所を隠す必要がないのと同様である。犯人が見ることができないはずの自身の部屋にいて演技をする(熱を測る)必要がないのに演技をする(熱を測る)のは、アンフェアに観客を騙す以外の何の意味もない(好意的に考えれば、解毒剤を服用した後念の為熱を測ったのだと見ることも出来ないことはないが)。
 つまり、菌を掛けられた後全てを端折って清水寺に着く場面に繋げば何の問題もない。僕は左脳人間だから、この原則を無視した本作に対して甚だ興ざめてしまった。勿体ない。

また、シリアスなお話にコメディリリーフがあるのは必ずしも悪いわけではないが、彼女に振られたという設定らしい、野村宏伸扮する京都医科歯科大学解剖医はくどすぎ、コメディリリーフの役目を超えてしまっている。これもまた興醒める要因。

野村宏伸は先日「学校の怪談」で再会したばかり。こういう役では余り観たくなかったですな。

この記事へのコメント

2023年05月13日 19:29
さすがオカピーさん、わかりやすく解説してくれてて、終盤、犯人と観客双方をたぶらかそうとしてて、でもオチはわかるんで安心して私はぼーっと楽しんでたけど、ああいうところがテレビドラマのお祭りノリかなあって感じたのは覚えていたので。
時期的には新型コロナウィルスが話題になったときに観たので、時流をとらえてるなとも思いました。
オカピー
2023年05月13日 23:09
nesskoさん、こんにちは。

>ああいうところがテレビドラマのお祭りノリかなあって感じた

全くテレビ的でした。
およそ想像は付きましたが、ああいうのはやってはいけません。
映画に関しては、僕はnesskoさんほど、寛容ではないのです(笑)

>時期的には新型コロナウィルスが話題になったときに観たので、時流をとらえてるなとも思いました。

そうでしたね。