映画評「ベイビー・ブローカー」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2022年韓国映画 監督・是枝裕和
ネタバレあり

そして父になる」(2013年)を観て僕は、是枝裕和監督は以降も親子(家族)の映画を作っていくだろうと予言したが、その通りになっている。韓国で作った本作は前々作「万引き家族」(2018年)と「そして父になる」を併せたようなお話である。

訳ありの若い母イ・ジウンが、教会の近くにある、日本で言う赤ちゃんポストのようなところに赤ん坊を置いて去る。
 しかし、この赤ちゃんポストは、クリーニング店主ソン・ガンホと弟分カン・ドンウォンが赤ん坊を売買する為に設けたもので、翌日戻って来たジウンは教会に赤ん坊がいないのを知り、ソンらと話し合うことになる。話を聞くと彼らが単に金儲けだけを目的としてやっているのではないことを知り、二人と一緒に引き取り手を探すことになる。
 彼らを監視しているのが女刑事ぺ・ドゥナとイ・ジュヨンの二人組で、映画の構図の中では狂言回しに近い位置にいる。そのまま放置しては死んでしまうであろう赤ん坊を中に入れたのもぺ刑事である。
 女刑事二人組は現行犯での二人の逮捕を目指し、遂には囮を使うが、どうにもうまく行かない。が、ジウンには不倫相手の子供の父親を殺した旧悪があり、それを使って二人のブローカーを罠に嵌めようとする。

凡そこんなお話で、引き取り手を探す旅に使う車にカン青年の後輩に当たる8歳の孤児少年が乗り込んだことから、赤ん坊を含めた5人の集合体が出来上がり、本物の母子が混じってはいるものの、疑似家族の様相を呈する。

終盤は少々漠然とした展開ぶりだ。
 女刑事の情で相対的に軽い罪で終わるようジウンは殺人について自首をしたことにされ、カンと引き取りを目指した真面目な夫婦は人身売買で連行され、ソンは悪党を殺して手に入れた4000万ウォンを持ってどこかへ逃げる。

ここで終わっては映画として完結せず何のことか解らないが、その後に唸った。特別なお話があるわけではない。焦点が俄然合って膝を叩いたのである。
 2年余り後、関係者は全員娑婆にあり、月に一度、赤ん坊を預かっているぺ刑事の主催で、依然行方不明のソンを除いて、孤児の少年を含めた全員が集まることになっているらしいのである。しかるに、その周辺にソンの車もちらちら。あるいはガソリンスタンドで働き始めたジウンを乗せたのかもしれない。

この映画が見せたかったのはこれ、即ち “そして家族になる” もしくは “そしてみんな(赤ん坊の)家族になった” である。
 最近の是枝監督は何が正しいかなどと決めつけない境地にある。「そして父になる」では、血と一緒にいた時間のどちらが重要かと主人公に命題を提示しながら、決めつける必要はないという結論を持ってきて強い印象を残した。本作においては、情さえあれば、社会的規範を越え、誰でも家族になれるという立場である。情以外に、親あるいは家族となる資格を沙汰しないという態度が実に良い。

やはり是枝裕和は、タイプは著しく違うけれど、平成・令和の小津安二郎じゃね。

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