映画評「あなたの顔の前に」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2021年韓国映画 監督ホン・サンス
ネタバレあり
ホン・サンスは一人合点的なところを感じ☆★は多くしていないのだが、結構興味深く観ている。
ひと月前に「イントロダクション」の映画評を書く時に、かなり前に初めて彼に触れた「アバンチュールはパリで」の拙評を読んでエリック・ロメールに言及したことを思い出し、今回ロメールを思い出しつつ観ていたら映画的に大いに楽しめた。今回5作目になるが、意外なほど良いと思えた。
アメリカから帰国した元女優イ・ヨホンが、寄寓した妹チョ・ユニのマンションから、二人で近くの名所に行ってみる。写真を依頼した通行人が女優であることに気付く。その足で妹の息子シン・ソクホの店に立ち寄る。
妹と別れて約束のランチ先に向う途中、子供時代に過ごした場所を訪れ、そこが花屋になっていることを知る。
ランチ先で会うのは、彼女に映画出演を頼むつもりの年下の映画監督クォン・ヘヒョである。しかし、彼女は自分には時間的余裕がない旨を告げて断る。それを知った彼は翌日短編を作る為に旅に出ましょうと持ち掛ける。
翌朝彼女のスマホには “酔いの勢いで言ったことで、やはり不可能” という監督のメッセージが残されている。
どこがロメール的かと言えば、殆どの場面が二人の会話で構成されているところである。三人の場面もあるが、四人以上は殆どない。
ヒロインは随時内面モノローグで神に語りかけるが、彼女にそうした信心をもたらしたのは死のうと思った時に気付かされた人々の顔の荘厳な美しさである。この経験で彼女は心の自由を得た。かかるヒロインの心境を画面に沈潜させた、すこぶる詩的な作品と思う。
ショットに良いものが多く、雨の小路をヒロインと監督が相合傘で画面奥に遠ざかっていくところを捉えたところは出色、殆ど感嘆した。「夜の浜辺でひとり」「逃げた女」で気になった昔のイタリア映画のような速くて意図不明なズームはなくなり、常識的かつ狙いが解りやすいズームになっているのも好感触。
同じような設定が多いという意味でホン・サンスは小津安二郎的である、とも言っておきたい。
他の作品も、ロメールを意識して見直すと、もっと良く思えたかもね。
2021年韓国映画 監督ホン・サンス
ネタバレあり
ホン・サンスは一人合点的なところを感じ☆★は多くしていないのだが、結構興味深く観ている。
ひと月前に「イントロダクション」の映画評を書く時に、かなり前に初めて彼に触れた「アバンチュールはパリで」の拙評を読んでエリック・ロメールに言及したことを思い出し、今回ロメールを思い出しつつ観ていたら映画的に大いに楽しめた。今回5作目になるが、意外なほど良いと思えた。
アメリカから帰国した元女優イ・ヨホンが、寄寓した妹チョ・ユニのマンションから、二人で近くの名所に行ってみる。写真を依頼した通行人が女優であることに気付く。その足で妹の息子シン・ソクホの店に立ち寄る。
妹と別れて約束のランチ先に向う途中、子供時代に過ごした場所を訪れ、そこが花屋になっていることを知る。
ランチ先で会うのは、彼女に映画出演を頼むつもりの年下の映画監督クォン・ヘヒョである。しかし、彼女は自分には時間的余裕がない旨を告げて断る。それを知った彼は翌日短編を作る為に旅に出ましょうと持ち掛ける。
翌朝彼女のスマホには “酔いの勢いで言ったことで、やはり不可能” という監督のメッセージが残されている。
どこがロメール的かと言えば、殆どの場面が二人の会話で構成されているところである。三人の場面もあるが、四人以上は殆どない。
ヒロインは随時内面モノローグで神に語りかけるが、彼女にそうした信心をもたらしたのは死のうと思った時に気付かされた人々の顔の荘厳な美しさである。この経験で彼女は心の自由を得た。かかるヒロインの心境を画面に沈潜させた、すこぶる詩的な作品と思う。
ショットに良いものが多く、雨の小路をヒロインと監督が相合傘で画面奥に遠ざかっていくところを捉えたところは出色、殆ど感嘆した。「夜の浜辺でひとり」「逃げた女」で気になった昔のイタリア映画のような速くて意図不明なズームはなくなり、常識的かつ狙いが解りやすいズームになっているのも好感触。
同じような設定が多いという意味でホン・サンスは小津安二郎的である、とも言っておきたい。
他の作品も、ロメールを意識して見直すと、もっと良く思えたかもね。
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