映画評「かがみの孤城」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2022年日本映画 監督・原恵一
ネタバレあり

本屋大賞を受賞した辻村深月の同名小説を、原恵一がアニメ映画化。

いじめっ子グループに色々嫌がらせを受けた中学生こころ(声:當真あみ)は不登校になるが、勇気を振り絞ってやっと出かけたフリースクールの担当喜多嶋先生(声:宮崎あおい)には多少安堵できるものを覚える。
 帰宅した彼女は、家の姿見(鏡)の中に引き込まれてかがみの城に入り、先に来ていた6人の同世代少年4人少女2人と知り合う。城には、6~7歳と思われる少女(声:芦田愛菜)がオオカミの仮面を被って “オオカミ様” と称し、【城にある鍵を探し出した人は願い事を叶えることは出来る。ここに居られる時間は9時から5時までで、5時までに帰らないとオオカミに食べられ、連帯責任を負うことになる】と命令調で告げる。
 単独ではどうしても探し当てられない7人は一致協力して在り処を求めるが、叶わない。色々と話をかわすうちに、全て同じ中学校の1年生から3年生の不登校生(一人だけはハワイに転校した、元志望生)と判明した彼らは、前進する為に、勇気を奮って登校して保健室で会おうと誓い合う。
 しかし、こころが出かけてみると誰も来ていず、がっかりする。

この映画での評価の分かれ目はここだ。ここで二つある大仕掛けが解ってしまった人(特に一つは極めて気付きやすい)は、一応の感動場面に心を揺さぶられることはあっても、絶賛するわけには行かない。残念ながら僕はその一人である。
 まだ新しい映画なので、本作の肝である人物関係については触れないことにするが、彼らが時代の違う生徒たちであるところまでは言及しても良いだろう。この時代差が登場人物の現実世界での関係を生むわけである。

本屋大賞というのは大人向けのイメージがあったが、本作原作はヤングアイドル向けもしくは児童書で、それらしく訴求するところは、少年たち(少年とは年齢のことで男女は関係ない。これを今では男女に分けるから混乱する)の一致協力とそれにより生まれる友情、そして(ヒロインの)成長である。
 概ね所謂クローズド・サークルものは人性の醜さを描くことを主眼とするが、かかるクローズド・サークルものの設定を使いながら、それと真逆に(児童書らしく)人性の美しさを描いたところが良い。

反面、本作が婉曲的に見せる、現実世界に絶えることなく続く学校の虐めに、暗澹たる思いになる。

人間って本当に弱くて愚かなんですよ。SNSでデマや差別を展開する人々はその第一。残念ながら、衆議院の頭の良い筈の議員の中にもいる。こういう人を頭が良いとは本当は言わない。

この記事へのコメント

2023年08月19日 19:35
時代が違う、というのは、にぶい私でもピンときましたねえ。
やさしい気持ちになって終わったのが一番です。リオン、頼むよ!
オカピー
2023年08月19日 22:17
ボーさん、こんにちは。

>時代が違う、というのは、にぶい私でもピンときましたねえ。

これが解らないのは登場人物くらい。だから、オオカミ様に笑われてしまうんですよね。
 それが解ると人物関係も推測できるところがあり、そこまでは寧ろ解らないほうが得かもしれません。